幸せの醜い渡り鳥 その1

 幸せの総量は決まっている。俺はそのことを知っていた。誰かには幸せが集まり、また誰かには不幸が寄りかかる。

 幸せというものは、誰かの不幸を代償として成り立っているのだろうか。だとしたら、平等なんていう主張は幸せ者の戯言だ。

 俺はそれを知ってしまった。それこそ、知らないほうが幸せだったのだろう。俺は無知の幸せも知っていた。

 知らなければよかった。幸せを願わなければよかった。俺は常々そう思う。

 今日もモノトーンの世界が流れていく。そんな濁流の中、俺は歩いた。




 学園の帰り道。俺はなんとなく宝くじを買ってみた。スクラッチで、その場で結果が分かるやつ。当選番号がどうのこうのっていうやつよりも、まだこっちの方がいい。

 俺は財布を取り出し、十円玉を右手の指先で摘む。

 硬貨の端っこで銀部分をガリガリと削っていく。さっさと削り終え、それを店員へと見せる。

「お、おおおおお客さん……これ……一等じゃないすか!! すげぇ!! 初めてみやした! 大当たりぃぃ!!!! 大当たりっす!!!」

「は、はぁ……」

「何すかお客さん、一等っすよ!? 小数点第三位とかそれ以下の世界っすよ!? パネェっす!!」

「口調の割に例えが高学歴ですね……」

「とりあえず、こんだけの金になったらここじゃ渡せないんで、ここの銀行で受け取ってきてください!」

 そう言って、彼は地図の一点を指で示す。やけに親切な店員だ。

「はい、ありがとうございます」

「大事に使ってやってくださいねーー!」

 店員の声を背にその場を後にする。

 しばらく歩くと銀行が見えてきたので、手続きを済ませた。途中、銀行員が目をコンパスで製図したような丸にしてその金額を見ていたが、気にしないことにした。とりあえず、この金額を持ち歩くのも躊躇われるので、銀行にそのまま預け、2万ほどだけ持ち出した。高校生の財布としては潤った。

 時間潰しも済んだことだし、バイトに行くとする。運良く、時給が良く、待遇も良い職場にありつくことができた。それこそ出来すぎなほどに。



 頃は夜中。辺りにはもう自然の光というものは無く、街灯とモノクロに光る建物の光が真っ暗な世界を唯一照らしていた。一人とぼとぼと歩く。

 もう春だとはいえ、夜中になればかなり冷える。本日、通りすがりの近所のおばさんに何故か上着を貰っていたので、それを羽織るとする。

 バイト先から家というのはそこまでの距離は無く、徒歩で移動をしても差し支えがないほどだ。こんな面でも出来すぎてる。

 そう、出来すぎているのだ。何もかもが。

 俺の周りでは自分にとって都合の良いことばかりが起こる。学校でだって、自分から話しかけたり、人間関係において一切の努力をしなくても、友達に恵まれる。バイト先だって、ただひたすらに都合の良い場所になった。さらに、今日引いた宝くじのように、現実味が無く馬鹿げているようなことさえ起こってしまう。

 それはいつだって俺を中心に起こる。全く、ここまでくれば、もうオカルトの世界なのではないのだろうか。それは呆れるほどに頻繁に、そしてご都合主義なのだ。この世の幸せというのは、実に極端に俺に傾いてしまった。

 そんなことを思いながらも実家に帰宅。ドアを開ける。そこには生活の音というものは無く、静寂の大気に包み込まれていた。

 俺はその空気の中を無感情に進む。

 親は、いつしか一人になった。そこは、俺にとってもご都合主義なことなんかじゃない。

 今日も夜勤で親父は働いている。毎日ほとんど顔も合わせることはない。でも、それは俺にとって苦ではなかった。

 静まりかえった家で、俺は帰り途中にコンビニで買った冷凍食品を食べる。冷凍食品というものは嫌いではない。実に楽に、誰にも負担をかけずに作ることができる。それに、そこそこうまい。今回の夜食は冷凍ビビンバだ。それを俺はさっさと平らげ、早々に床に着いた。

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