ワタリドリ

@tsushimajima

プロローグ 旅立ち

 いつの事だっただろうか。

 いつか、僕は決意をした。

 それは遥か遠い昔の様にも感じる。

 でも、それが一体なんだったのか思い出せない。

 記憶の海から引っ張り出そうと飛び込んでも、ただただ藻掻くだけで、それが何処にあるのかさえ分からない。

 それは不明瞭な海だ。

 まるで僕を何かから遠ざけ、拒んでいるかのよう。

 でも、わずかな光が見えた。

 それは存在さえも不確かな、淡く脆い光。

 今にも消えてしまいそうなもの。

 その一欠片を必死に追いかけた。

 ただひたすらに手を伸ばす。

 僕はそこに近づけているのだろうか。

 その光はいつまでたっても朧気だ。

 それでも、僕は藻掻いた。

 すると、僅かばかりに指先が光を掠めた。

 それは白昼夢の如く映る。

 ひどく懐かしい。

 そんな印象を覚える。

 でも、それはただ一つの想いを起こさせた。

「ぬくもりを探さなければ」

 ただそれだけ。

 ぬくもりとは何だろう。

 それは何処にあるのだろうか。

 それは近くにあるのだろうか。

 それは、今の僕にとって遥か彼方にあるものなのだと思った。

 だから、探しに行こう。

 いつかの想いを叶えるために。

 永劫の旅に出かけよう。

 僕は飛び立つ。

 この手足を翼に変えて、遥かな空へ。

 それはどんな旅になるだろう。

 気楽なものか、それとも苦難なものか。

 それでも、ぬくもりを見つけるんだ。

 誰のため?

 それは誰かのためだったような気がする。

 その誰かのため、僕は必死に翼を振るう。

 まだぎこちない、そんな飛び方だ。

 それでも、旅をするには十分だ。

 体はグングンと高度を上げ、少しずつ太陽へと近づいていく。

 遠くに大地が見えた。

 それは限りある大地。

 でも、こんな小さな体には無限大なものに感じられた。

 僕はまずそれを目指す。

 不格好に飛びながら。

 その翼は気持ちの良い音を立て、大空の蒼の中で輝いていた…………。

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