第14話 ユーノの事情も聞いてあげよう
「いやはや……ミスリル銀の鉱脈とはな」
「おそらく、ユーノ君の力 (物理)とノイン君のスキル”進化”……2つの魔力係数が共振し、大規模な錬金術式が偶然発動したのだと考えられるが……」
「くくっ……実に興味深い事例だよ。 ああっ、いよいよユーノ君を解剖したくなってしまった」
「ちょちょっ!?」
「所長、お勧めしませんよ……胸に脂肪が詰まっているだけで、頭は空っぽですから」
「ふむ……? 確かにユーノ君の重量は体積の割に軽いな……なるほど」
「さりげなくヒドイ!?」
僕たちが研究カリキュラムの一環として探索したダンジョン、その最下層でミスリル銀の鉱脈を”作り出してしまった”事を報告すると、イレーネ所長はマッドな研究者の顔になり、7割本気で冗談を飛ばしてくる。
そんな彼女にほんのり軽い冗談を打ち返しておく。
当意即妙とはこの事だろう。
「……あともう一点、俗っぽい事であるがこれだけのミスリル銀鉱脈……当研究所の財政的にも大助かりだな」
「これは臨時ボーナスだ、受け取り給え」
ずしっ!
「うおっ!? 両手に持ちきれないほどの金貨が……むぎゅっ」
金貨が詰まった袋を持ち上げようとして、ユーノがつぶされている。
たった今変形した彼女の無駄脂肪のボリュームと比較すると……数千万センドはあるに違いない。
「い、いいんですか所長……こんな大金」
「はっはっはっ! 帝国工部省の報告では、鉱脈の価値は数百億センドを下らないとのことだぞ?
気にせず受け取っておきたまえ!」
「の、ノイン……数百億センドって……」
「ああ、僕らの”寮”1万軒分、ユーノの食費1万年分だな」
「ひょおおおおおっ!? これでユーノちゃん一生好きなご飯食べ放題っ!!」
貰えるのは数千万センドなのだが、ウキウキと踊るユーノ。
……冷静に考えるとユーノの食費って高いな、やっぱりどこかで捨てるか?
帝国の食料自給率にも悪影響が出そうだし。
ユーノの食費削減案はともかく、当面生活に困らない大金を手に入れた僕は、せめてユーノの食費をねん出できるよう財テクに頭を悩ませるのだった。
*** ***
「おおっ? 女神スマホに”天界”から通知が?」
家に帰るなり、リビングのテーブルの上に置きっぱなしになっていたユーノの女神スマホがピカピカと光っていることに気づく。
どうやら、彼女の雇い主というか上位存在から連絡が入っているようだ。
「1通目は”キミも女神ヤキウ新球団に投資しよう! 今なら給与天引きで年利1.5%”……はぁ、スパムぅ、相変わらず”上”はけち臭いなっ!」
……どうやら財テクのお誘いだったようだ。
僕もギルドに所属していた時、ポンコさんから半強制的に冒険者保険に入らされていたけど……上司が勧めてくる”商品”にロクなものが無いのは天界も同じようである。
というか、この世界に生きる生物達の信仰の対象が”天界”である……あまり俗っぽい一面は見せないでいただきたい。
「ノイン? しょせん女神勢力もお役所……こんなもんだよ?」
「あれ、まだある……これは直属の上司からだね」
「って……ふおおおおっ!?」
女神スマホの通知はもう一通あったらしく、それを読んだ瞬間ユーノは歓喜の叫び声を上げる。
「ノイン! やったよっ!」
「今日の冒険?が人間界に貢献したという事で、女神ポイントをゲットしたよ!」
「わたしの女神スキルも1つアンロックされたし……”このまま徳を積んで女神ランクを上げ、今年の女神シリーズで優勝すれば、貴殿に課せられた刑罰の減免を検討します”だって!」
「すなわち! ノインと一緒に色々頑張ってればユーノちゃん自由の身になれるよ! あんりみてっどだよっ!」
……たしか”人間界奉仕作業200年の刑”だったか?
刑罰をチャラにしてあげるという提案を受け有頂天なユーノ。
文章をよく読むと”減免を検討”などど、対応を確約していないお役所的な言葉が並んでいるが……ユーノがやる気になっているならそれもいいだろう。
「”女神ランク”とか”女神シリーズ”とかよくわかんないけど……今の僕があるのはユーノのおかげだからね、なんでも協力するよ!」
「ありがとうノイン! わたし、もっともっとノインのために頑張るね!」
「いやそれは危ないから拒否」
「ノーウェイト拒絶!?」
かくして、僕たちの当面の目標は”女神ランク”の向上という事になった。
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