第10話 今明かされる驚愕の(というほどでもない)女神の秘密

 

「それでは……ノイン君にユーノ君、素晴らしい仲間の着任に……乾杯!」


「「「かんぱ~い!」」」


 きんっ!

 ウイスキーにアップルサイダー、様々な飲み物で満たされたグラスが触れ合い、涼やかな音を奏でる。


 イレーネ所長主催の歓迎パーティは、和やかな雰囲気の中始まった。


「もぐもぐ……このお肉、美味しいっ~! にじみ出る脂がちょうどいいね」


「僕は赤身にするよ……うっ、見てるだけで胸焼けしそう」


 健啖家のユーノは、さっそく霜降りたっぷり、肉汁したたるステーキを頬張っている。


「んぐっ……それにしても、でっかい寮だったね~」


「キッチンにリビング、客間に寝室が3部屋もあって……完全に家族用の物件か」


 僕は魚好きなので、帝国名物サーモンのマリネに舌鼓を打ちつつ、ユーノの言葉に同意する。

 歓迎パーティが始まる前、イレーネ所長に案内された僕たちの”寮”は驚くべき豪華さだった。


 海が見える高台に立てられた2階建ての一軒家、広いリビングに各種調理器具の揃ったキッチン。

 ふかふかのベッドが置かれた寝室が4部屋もあるのだ。


 もちろん寝相が悪くて寝言が多いユーノとは別々の寝室を使わせてもらうので、僕の安眠は約束されたようなものだったが、新人研究員 (と居候女神ちゃん)には過ぎた設備と言えた。


 もし王国で買おうとすれば数百万センドは下らないだろう。


 こんな好待遇をしてもらっていいんでしょうか、イレーネ社長に問うと、彼女は僕の懸念を豪快に笑い飛ばす。


「なに、私の実家が無駄に建てた別荘の一つでね、正直持て余していたんだ」

「将来有望な若人に使ってもらえれば世の中の役に立つと言うものだろう」


 ワインを傾け、僅かに頬を赤くしたイレーネ所長はそこで言葉を切ると悪戯っぽい表情を浮かべる。


「それに……」

「君たちにも”家族”が増えるかもしれないじゃないか……そう、女神は抜いた鼻毛から増殖するのだろう?」


「ぶはっ!? しませんって!」


「はっはっはっ! 冗談だ」


 いちいちリアクションが面白いユーノが所長にからかわれているが、”新しい家族”か……事例は少ないけど、女神ちゃんと”そういう関係”になり、子供が出来た女神付き冒険者もいるらしい。


 ユーノと”そういう関係”になることを想像してみる……う~ん、3年の付き合いで”クサレ相棒感”が強すぎてあまりピンとこないかも。


 せめてそういう気分になるかもしれないのに……やはり”進化”で削るか!?


「ふおっ!? どこからともなくユーノちゃんに危機が迫る!?」


 考えこんだ僕の邪気を感知したのか、防御態勢を取るユーノ。

 ちっ、危機察知能力だけは高い女神ちゃんである。


「そういえばイレーネ所長……先ほど言われていた”セントラル女神”って何のことですか?」


 ユーノの話になったので思い出した。

 イレーネ所長に挨拶したとき、彼女はそう言ったのだ。

 ”女神付き”になる女神ちゃんは神の使いであり、種別があるなんて聞いたこともない。


 僕は雑談のつもりで、何気なく口に出しただけだったのだが。


「……あっ」


「ほう! 興味があるのかねノイン君!!」


 やってしまった……という感じで受付の女性が天井を仰いだ瞬間、イレーネ所長の目の色が変わる。


 がしっ!


「まず”女神付き”とはなにか、物語は始祖神が天地開闢の御業を行使した1200年前から始まる……」


 僕の隣に瞬間移動したイレーネ所長に、しっかりと肩を掴まれる。

 あっこれ、ヤバい奴だ……逃げる暇もなく、イレーネ所長の”講義”が始まった。



 ***  ***


「……という事で、始祖神の流れを汲んだ伝説的な”メジャー女神”……その血を引いた女神たちは”セントラル女神”、”パシフィック女神”の2大勢力に分かれ、地上世界への影響力行使を競っているわけだな!」


「彼女たちの魔力の源は地上世界に生きる知的生命体の”活力”……冒険者を目指す若者に”女神付き”が多いことが、私の研究で分かったのさ!」


「ほえ~」


「はえ~」


 2時間後、イレーネ所長により大量の知識を詰め込まれた僕らの脳みそはオーバーヒートし、二人そろってアホ面を並べていた。


 1行でまとめると、ユーノは”セントラル女神”という勢力に属し、冒険者を目指す僕のもとに降臨したというわけだ。


「ぬほ~、セントラルとかパシフィックとか何のことかと思っていたけどそういう意味だったんだ~」

「女神教官にいつも”この子は実技だけで全く知識を覚えない……脳みそがパルメジャンチーズで出来てるんじゃなくって?”って怒られていたけど、ようやく理解できたよ~」


 ……人間の研究者より知識のない女神ちゃん、この子大丈夫なんだろうか?


「いやいや、女神ちゃんの仕事なんてマニュアルに沿ってやればできるんだよ? 魔法使いが魔法の原理を理解してるわけじゃないでしょ?」

「女神スキルなんて雰囲気だよ~」


 い、いや……術式を理解しておかないと暴走することもあるし、危険なんだけど。


 そのうちとんでもない事故を起こしそうなので、いざという時にスイッチを押せば電撃が流れるマジック首輪を買ってユーノに付けておこうか……真剣に悩む僕なのだった。

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