第9話 転職先の上司がロリでマッドです
「ようこそ”帝国戦略研究所”へ。 私が所長のイレーネだ」
「こう見えてハーフエルフでね。 このナリだが29歳だ」
「くくっ……感謝するよ。 こうもあっさり私のオファーを受けてくれるとはね」
(ね、ねえ! 大丈夫なのこの職場? なんかあのちっちゃい子が所長みたいだけど!)
新しい職場である”帝国戦略研究所”に到着し、受付の女性に促されるまま、色々な書類にサインした僕たち。
手続きは滞りなく進み……直属の上司となる研究所長に挨拶することになった。
いかにも”ハカセ”なひげ面のおじいさんが出てくると思っていたんだけど……。
(うーむ、ちっちゃくてかわいい)
くるくる巻いたピンク色のくせ毛を持つ、大きな紅い目をしたハーフエルフ。
幼さを残す身体をびしりとタイトスーツで包み、白衣を羽織ったうえにアンダーリムの眼鏡までかけている。
服装はいかにもプロフェッサーなのに外見はあどけない幼女。
はー、世界は広いものである。
(へー、ハーフエルフの子なんだ……わたしエルフって初めて見た! すごっ)
自分は激レア女神ちゃんのくせに、無邪気に感動しているユーノ。
「……さて、各種手続きは済んだと聞いているが」
イレーネ所長は手元のファイルをぺらぺらとめくる。
事務手続きがすべて完了していることを確認すると、突如冷静な声色に熱が混じる。
「くふっ……早速だが”調べさせて”くれないか?
帝国では女神付きは希少でね……どういう魔力リンクで”繋がっているか”調べたかったんだ」
彼女の紅い瞳が怪しく濡れ……大きく手を広げたイレーネ所長の形の良い唇が開き、更なる早口で言葉を紡ぎ出す。
「それに、ノイン君はユニークスキルを2つ持っているのだろう? ああっ……なんと興味をそそられる検体なんだ……」
「それにそちらのボケっとした女神……この魔力パターンは”セントラル女神”か?
はははっ! 大歓迎だよモルモットちゃんたち!」
「ナチュラルにディスられた!?」
先ほどからアホ毛をくるくるしながらボケっと突っ立っていたユーノが、ディスられてショックを受けている。
それはそれとして、所長がどこからともなく取り出した2本の注射器には、禍々しい紫色の液体が詰まっているんですが。
「くくく……ご心配には及ばないぞ、これは栄養剤 (意味深)だ」
絶対ウソだ……!
とりあえずユーノを生贄にしてこの場を切り抜けるしかない……無駄に頑丈な彼女のこと、アレくらいの薬剤ではびくともしないだろう、多分。
僕は戦略的撤退をするべく、じりじりとユーノの後ろに回り込む。
「……所長、新人を怖がらせないでください」
ぶすり!
その時、風のように現れた受付のお姉さんがでっかい注射をイレーネ所長の腕にぶっ刺した。
「うっ……くっ……はあっ」
やけに悩ましい吐息とともに所長の瞳に理性が戻っていく。
「……いやはや、済まないね君たち」
「どうも興味深い個体を目の当たりにすると、私の中に棲む”探求心”という悪魔が頭をもたげてくるんだ……驚かせたのなら申し訳ない」
「こほん……君たちのために、新築の一軒家を寮として準備させてもらった」
「家賃は研究所が負担するし……平日だけだが食堂で食事も出る」
「まずは寮を案内しよう……ついてきたまえ」
「ふふっ……ささやかだが歓迎会の準備も出来ているぞ」
すっかり落ち着きを取り戻したイレーネ所長は、白衣をハンガーにかけると柔らかく微笑む。
一戸建てつき食事つき……このかわいい所長がたまに(?)マッドな事を除けば破格の条件と言える。
「ほえ~、歓迎会か~今日のごはんは何かな?」
さっそく食事に釣られているちょろ女神ユーノの後を追い、僕も寮へと急ぐのだった。
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