三喜ちゃん

「本当に、今日はとことん運がない…!」


 私は山﨑三喜。絶賛死にかけ中。

 今日はとことん運がない。バックの紐は千切れるし、スマホは落として画面がバキバキになるし、財布無くすし、しまいには大事にしてた真白ちゃんの写真がたくさん入ってる『真白ちゃんフォルダ』が紛失した。うっ!思い出したら泣きそうになってきた…


「だ、大丈夫か…!三喜!」


「うん、大丈夫!」


 泣きそうになってる暇なんてないんだ。油断したら死んじゃうから。

 いま、私たちが満身創痍の状態にいるのは全部目の前のオーガのせい。いつも通り、ダンジョンで配信してたら、突然目の前でこの異常成長をしたオーガが出てきたのだ。

 オーガによってパーティは一瞬で壊滅。それでも、今こうして誰も死なないでいるのは、オーガのおかげだったりする。まあ、感謝なんてしないけど。弄ばれてるだけだから。

 ちらり、と私たちの後ろを飛んでるドローンを見る。ドローンには、カメラとタブレットがついていて、タブレットでコメントとかを見るのだ。コメントを見る。


————————————————————

・やばいやばいやばいやばい!

・死なないで三喜ちゃん!

・誰か助けに来てくれ…!

・逃げろ!

・もうむり、推しが死ぬところ見たくない

————————————————————


 案の定、悲壮感に溢れてる。

 正直、逃げたい。けど逃げられない。仲間を置いて行けないってのもそうだし、このオーガが素直に逃してくれるとも思えない。

 耐えるしかできない。

 けど、耐えてれば助かるんだ。

 だって、最強の助っ人を呼んだから。

 あの子なら絶対来る。後少し、後少し耐えれば、ここに着くはずだから。


「グガア!」


 大ぶりな攻撃。受けたら持ってる剣ごと叩き潰される一撃。何をしてもダメージにもならないから、避けるしかない。

 バックステップで避けると、私の目の前ギリギリを棍棒が過ぎる。

 そして、持ってる棍棒を私に押し付けてきた。

 すぐ後ろに倒れてる仲間がいるから避けられない。私に直撃したら、死にはしないけど、ただ死なないだけ。持ってる長剣で受け止める。

 これ以上下がらないように押し返すが、ぴくりともしない。

 オーガが、被虐的に嗤いながらゆっくりと押していく。


「ぐ、ぐうぅぅぅぅぅっ!」


 いくら全力で押しても押し返せない。

 すると、突然右の横腹に衝撃が来た。

 そのまままっすぐ壁にぶつかり、そのまま崩れ落ちた。オーガの方を見ると片足が上がっていた。蹴られたのだ。

 肋骨は何本か折れ、壁に当たった衝撃で左腕の骨がバキバキになった。内臓にもかなりのダメージがあり、立ち上がることができなかった。

 オーガは立ち上がれない私を見ながら、倒れてる仲間の3人に向かって、棍棒を振り上げる。


「まっ………!」


 動かない。動けない。指の一本も、一ミリも。

 動けと命令を出しているのに動かない。

 オーガが棍棒を、力一杯握りしめて、振り下ろす瞬間、何かが棍棒にあたって、棍棒ごとオーガを弾き飛ばした。


「あ…、やっと、きた」


 待ち侘びた、最強の助っ人最愛の友達が。やっと来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る