過去

私は魔王になる以前

女神だった

勇者を支援し、世界を平和に導く

そんな大義名分とは程遠いくらい

やる気がなく、ただ仕事のように

女神界の繁栄と生きていく為に

淡々と作業をこなす


勇者だって死んでしまう


転生者の犠牲者を減らす事を考えて

支援するだけじゃなく

もっとできる事があるはずなのに

何かを訴えても現状は変わらない

そう思い最初から諦めていた

何も変わらない毎日


ある日の事

何やら騒がしいなぁと思いつつも

担当世界の勇者を監視ルームの

モニタで見てるいつもの作業

数名がバタバタしているのが気になったので

隣の席でモニタを見ていた女神に


 『ねぇ今日何かあったの?』


と聞いてみた

ヘッドホンを外して気怠そうに答える

隣の子


 『なぁんかぁ

 1人行方不明になったらしいよ

 担当の勇者の世界に行ったんじゃないか?って

 捜索してるみたい』


そう言って興味なさそうにまたヘッドホンをし

自身のモニタを監視する隣の子

ちなみにツインテールだ


 『あ、そうなんだありがと』


と返事を返したがたぶんもう聞いてない

それを聞いた私は


 やる気のあるタイプの子が

 真剣になりすぎて感情移入しちゃった

 のかな?


そう思った

一生懸命になったばかりに

勇者の力になりたいとか

そんな無駄な事をしに行ったんだろうな

そんな風に勝手に解釈していた


数日たったある日

行方不明だった女神が見つかったらしいという

話を小耳に挟んだ

あ〜よかったね

くらいにしか思ってなかったのだけど

事が解決していないのか

天使隊の派遣が決まったみたいだという噂を聞いた


天使隊

いわゆる軍隊である

見つかったのになんで捜索隊ではなく

討伐目的のような隊を派遣するんだろう?

ちょっとおかしいと思い

上司にあたる指揮官に聞いてみたが


 『気にしなくていい』


それだけだった

気にしなくていいいって言われると

余計気になるのが人のサガってもんだ

人じゃなく女神なんですが

私は知られたくないような事が起きてると思い

ばれないようにこっそり

事の詳細を調べてみた


女神界にきて

初めてなにかを頑張ったかもしれない

その時点で分かった事実はこうだった


とある世界に転生した勇者

頭がキレて、そして何よりも強い

サクサクと旅が進んでいき

あっという間に魔王の元にたどり着いてしまった

早すぎた、という事もあり

人間界での浸透も少なめ

触れ合いがあまりなかった

そう、言い方が悪いが恩を売ってこなかった

勇者には当初から無駄に戦わないという

スタイルがあったらしく

余計な戦闘を避け

最短で魔王の元に行く事が

世界を救う事になるという考えだったらしい

そしていざ魔王戦

圧倒的な強さで魔王を追い詰めたのだが

とどめはささずに

和解の道はないのかと

対話を試みたのだった

それから魔界に滞在し

魔王との対話が続き

そして人類と魔族

人界と魔界が手を取り合いたいという

勇者の説得に魔王が折れたのだった

しかし時代が悪かった

違った世界なら歓迎される未来もあったのだろう

血が流れすぎた世界だった

すでに混沌の時代にまだ落ちていた

人類、魔族

どちらも犠牲者が多く

すでに取り返しのつかない自体にまで

事が進んでしまっていた

それでも勇者は諦めず

人類の代表者である各国の王を説得しようとした

しかしもはや国民が振り上げた拳は

降ろせる場所がなかった

それでも勇者は諦めず

国民の説得にも自らの言葉で

伝えて回る事にしたのだった

しかしそれが反感を買い始めた


 勇者が魔王を倒さず

 仲間になったのでは?

 

そんな話さえ聞こえてくるようになった


そして人類だけではなく

魔族側から魔族を脅迫する勇者を倒せと

不満が大きくなっていた


もちろん理解者もいたが

それが余計に事を荒立てる

勇者に対して両種族から

討伐隊が出るまでに至った

ちょっとした鍵のかけ違いだったのかもしれない

勇者がもっと人間界での触れ合いがあったのなら

みんなに浸透していたのなら

魔界に滞在した事でいろんな疑いをかけられる事も

なかったのだろう

そして強すぎた事により

魔族側からは脅迫にしか捕らえられなかった

この異世界がすでに末期だった事もあり

争いが進みすぎてしまった

たくさんのちょっとした事が悪い方に

進んだのかもしれない

居場所を失っていく勇者を

見てれいられなくなった女神が

掟をやぶり勇者の元に駆けつけてしまった

そして共に手を取り合ってしまったのだ

まだ全てを許せる未来があると信じ

2人はがんばった

しかし、世界は認めてくれなかった

それどころか

女神界からも見捨てられてしまった


これが今起きてる事象だった

全く知らない女神と勇者だったが

気の毒に、とは思った

そして薄ら、いや知ってはいたのだが

あえて気にしない事にしていた事実

人々が不幸であればある程助けがいがある


女神界にしてみれば

今回の勇者の考え方は危険な思想にあたるのだ

この思想が女神界に広まる事になれば

勇者が世界を救う旅の意図が変わってくる

人類をわかりやすく救ってくれた方が

女神に対する信仰も強くなるのだが

不満が残る状態であれば

女神信仰が権威を落としてしまいかねない

対立する種族の対話による平和が訪れれば

犠牲者が少ないに決まっているのだが

それは勇者が貢献した証が少ない

人類はできるだけの不幸から

女神の使者である勇者が

敵を倒して世界を救う

これが一番女神界への

神々への信仰が高くなる

そう、人類がより不幸であれば

できるだけ不幸であれば…

救われた世界からの恩恵は大きい


誰しもが知っている事実を

改めて認識する事で

自分の無力さを感じる魔王様であった


続く

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