新人さんいらっさい
『やぁ朝陽くん、おはよう』
出勤してすぐの事、ふと背後から声を掛けられた。
この声の主はと思い振り向くと同期の田口来未(たぐちくるみ)だった。
『私の背後から声をかけるなんて場所が場所なら命に関わる事だぞ』
と冗談で返しさらに
『よぉ、私の同期で入院中一度お見舞いに来てくれた
田口来未さんじゃないですか、お久しぶり。おはようございます』
と説明を入れつつ私が挨拶を返す
『なんだよそれ〜誰に対する説明だ?しかも久しぶりって
毎日顔合わせてるじゃないか』
と田口が言う。
『なんか久しぶりな感じがしたのだ』
と適当に返しておいた
『そんな寂しい事言わないでよね、まぁいいけどさぁ〜』
少し拗ねた感じで田口が返してきた。
『あはは、いやすまないね。んで後ろにいる人は?』
いつもの軽口から本題だろうと思われる田口の背後に半分だけ
見え隠れしている人物についてこちらから触れてみた。
このまま行くと後ろの彼がずっと待たされる事に
なりそうだからね
『あ〜そうそう、ちょい前からうちの部署に派遣されてきてくれてる
即戦力に新人の須磨(すま)三笥瓊(みすぬ)さん、時間あるうちに社内観光をね』
と田口が新人さんの紹介してくれた、が朝陽の検索からも読めない漢字だった
『あ、ど〜も』
と新人さんが挨拶というか明らかにこちらを意識していない風でいう
『ど〜も』
こちらも同じく口調で返しておいた。こやつ完全に私を見下してるな
完全に視界の外においてるわ
やはりダンボールをたくさん担いだ姿が雑用係に見えてしまっているのか!
くぅ〜悔しいが今の私の立ち位置はそこらへんだ!
『そろそろ戻りませんか?あまり時間ないと思いますよ?』
と新人須磨が田口に遊んでないで仕事しましょうという感じで言っている
『社内観光はもういいのかい?この先によく当たる自販機もあるのだけど?』
と田口が返しているが新人須磨はどっちでもいいみたいで溜め息つきながら
『いえ、一応社内見取り図で知っていますので結構です。プレゼンまでの
時間があまりないので私も早く取りかからないと』
と須磨が田口に戻るように急かす
『そっか〜息抜きも大事だと思うのだが、お仕事に戻るとしますか』
『じゃ〜ね朝陽。ぐっばーい』
めんどくさいね〜という感じを出しつつも実際は今田口が抱えている
プロジェクトへかける思いは半端ないのを私は知っている。
毎日遅くまであーだこーだと話合いしてるもんな
『がんばれよー』
と声をかけておくと、田口来未が後ろ向きで手を振っていた
なんかわからんが大変そうなのが伝わるよ、がんばってな
いつもの雑用をてきぱきをこなし、事務所に戻ると朝比奈先輩から
『おつかれさま〜ご苦労様でした、助かったよ』
とお気使いのお声を頂いた
『いえいえ、こんな事しか出来ないんでお役にたてて何よりです』
はぁ〜かわえ〜な〜この人の笑顔は最高のエキスだ
同棲をも魅了するなんて、もしかしたらサキュバスあたりの血が入ってるのかな
そう思ってしまう
いつか帰る時に連れていきたい……
と私はそこでふと思った
いつか帰るんだよな……そう、だよな
いつからかこの世界に馴染みすぎていると思っていた
実際には楽しんでいる、認めなくなかったのだが
人と接する自分に嫌悪感がどんどん薄れてきていた
そしていつか別れが来る事
それは私だけで周りのみんなには中の人の事なんてわからない事
私が私であるのはここでない、それが分かっているのだが
何も伝えられない別れがいつか来るのが寂しいと思っている
そこが自己嫌悪であり、葛藤でもあり、そして暖かさも感じている
その自分を認めてしまうと私はもう魔王として君臨できないのではないか
いろいろ思考がグルグルと回ってしまって答えはない
異世界召喚された勇者が現世に帰るかとどまるか、選べという選択も
かなり酷だなぁ〜女神からしたらどちらか選べるなんて良かったね
みたいな感じだったが、実際選ぶって出来なくね?と思うよな
朝陽は現世に思い残しがあるから帰る事を目標にしてたらしいが
それでも迷うだろうな
そんな事を最近よく考えると同時に
一体いつ帰れるんだ?女神からの連絡もないし大丈夫なの?
とも思ってる。
続く
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