心のありか

病院を後にする魔王様


看護師さん達に見送られ、挨拶をし妹御とタクシーとやらに乗る。

複雑思い、不思議な感覚が自分の中にあるのがわかる。


 人の体に入っているからだろうか?

 人族とはずっと戦闘を繰り返し、憎むべきとまではいかないが

 自分が気にかける相手ではなかった。

 殺す事に違和感がなかったはず。そう魔王になってからはずっと。

 看護師さんや、拓人、妹御、との出会いがあったからなのか

 嫌な感じはしない感情が生まれている事が不思議でならない


そんな事を考えてたらタクシーが動き出した。手を振る看護師さんと妹御。


 ぬあ!う、動いたーー?

 な、な、何で動いてるんだこれ?

 お、お、お、は、はやい〜〜

 ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜

 

『どうしたのお兄ちゃん?顔が引きつってるよ?』


と妹の月依(つきよ)が笑ってる。

よほどおかしな顔をしてるんだろう、クスクスと笑って止まらない。


『久しぶりの車で驚いてんのー?』


カーブで曲がる瞬間に体がずれて月依の方に倒れる。


『ちょっ、何しがみついてんのよー』


月依がびっくりしながらも照れてる。


『ちょっ、すまない。体がうまく固定できないのだ』


車に乗る自然が重心移動が、車のスピードに驚き緊張した体が

かちこちになってしまってる魔王様。

つまりビビってしまっているのだった。


『車こえぇ〜〜〜ヒィ〜〜』


妹の腕にしがみついてビビってる魔王様をみて

運転手さんもちょっと笑いをこらえてる。

そんなこんなで到着。


『知ってると思うけど着いたよ、お兄ちゃん』


タクシーから降りて四つん這いになってる魔王様に向かってそう言う。


『そんなに車嫌いだったっけ?』


不思議そうな月依。


『いや、ちょっと久しぶりすぎてと言うか異次元すぎて』


と私は答えた。

 

 なんかビビった。 

 ふっさすがは勇者が住む世界の乗り物といった所か

 やるな、勇者朝陽め!


『立てる?部屋行こうか?』


と言う妹の後についてく。


 人族の住む家はこっちもあっちもそう大して変わらんもんだな

 繋がりを気にするくせに、個人スペースを守る。

 魔族なんぞ適当に住んで、適当に寝てるがな


部屋の鍵を開けて中に入る妹の月依。


 ここが私の住処か

 狭いが、まぁまぁの場所じゃな

 病院と違い、落ち着く、そう体が感じてる気がする


ベランダに出て外を眺める魔王様


 心のありかはどこにあるのだろうか

 こういう状況になって思う

 朝陽を感じることがあるし、思いが重なる事もある

 しかし朝陽の意思はここにない

 魂のない体に私の魂が入っているだけなのだが


少し小高い場所に建っているマンションという場所らしい

ベランダからの景色を見ながら拓人を思い出す魔王様。

持っていたキーホルダーを出し、目線の高さに合わせ


 拓人にもこの景色を見せてやりたかったものだ


そう思ってハッとする。


 この気持ちは私の物なのか

 朝陽の心に流されているのだろうか

 分からない

 

キーホルダーをグッと握りしめ遠くを見てると


『そんなとこでカッコつけてないで片付けてくれるかな〜』


月夜がちょっと怒って言ってきた。


『あはは、は〜い』


そそくさと片付けを手伝う私、魔王様。

晩ご飯を食べてご満悦な魔王様


 やっぱこの世界のご飯はうまいのだ


そう心の中で呟く。


『お風呂入っちゃう?準備できてるよ』


そう月依がいうと


『何?お風呂だとー!どこだ?』


思わずテンションマックスの魔王様。


『どこってそこじゃん、それも忘れちゃったの?頭打つって怖いな〜』


月依が指差した場所にダッシュする魔王様


 久しぶりのお風呂だ〜

 気が済むまでひたって、飽きるくらい泳いでいたい

 

魔王様のお風呂イメージが魔王城のどでかいお風呂が脳内あったのだが

お風呂のドアを開けた瞬間固まる


『オフロハココデスカ?』


 

 これじゃ〜足の伸ばせるかどうかじゃん

 泳げないし浮けないね

 残念だけど人族ってそんな感じなのかな〜


『ん?どうしたのお兄ちゃん』


月依が不思議そうに見てる


『あ、いや一緒に入るかな〜?なんて。アハハ』


 これじゃ一緒には入れないね。


狭いからそれはないよねって感じの話を

振ったつもりだったのだが


『なななな、何言ってんのよ//』


と焦る妹、月依。


 チャポ~ン


効果音は大きさに限らず同じなのである。

 

 狭いがまぁいいのだ

 この体でなかったらもっと堪能するのだがな

 あまり見ていたくはないのだが

 お風呂の誘惑には勝てない

 天国や〜ハァ〜〜〜〜


と風呂から出る魔王様。

体拭く時は目をつぶりながら我慢する


部屋に戻ると月依が


『あ、その隣の部屋、私用に片付けたからね

色々飾ってあった人形とかゲーム機とかたくさんあって

さすがに捨てるとまではしないけど、段ボールにつめて

クローゼットに直したよ』


そう月依が言った瞬間

魔王様に電気が走る

 

 なんだ、この落ち込み用は今すぐ四つん這いになって

 涙を流したいくらい凹んでいる

 くそっ、人形か?ゲーム機とやらか 

 そんなに悔しいのか?勇者朝陽め!!

 私はこの気持ちに負けないわ!!


結局落ち込む事になった魔王様は四つん這いになって泣いてた。


 やっぱ朝陽の心が生きてるよな〜

 これ絶対私じゃないし〜

 あほ〜ぼけ〜

 何も悔しくないのに感情が爆発しとるやんけ

 

『もう!なんなんだよ〜これわー!』

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