トレジャーハンター

今日もジュースがうまい!自販機の前で至福の時間を

満喫している時だった


『よ〜朝陽兄ちゃん』


呼ばれて振り向くと少年がニコニコしてこっちを見ている。


『お、師匠じゃないか』


私が師匠と呼ぶこの少年は、この病院に入院している

10歳の少年で名は拓人と言う。もう入院して3年になるらしい。

なぜ私が師匠と呼ぶのかと言うと

私は病院というこの施設が珍しく暇があれば探検というか

冒険をしていたのだ。

あちこち物珍しいものがたくさんあり、うろうろしている時だった

小児科病棟という入り口の前を歩いている時だった

その先に行こうと思った時に拓人が声をかけて来たのだった。


『おぃ。その先に行ったら怒られるぞ』


その扉の先は関係者以外は入ってはいけないらしい。

そんな事も知らないのか、という話から色々教わっているうちに

病院内を探検していた事を言うと、色々と案内をしてくれるようになり

探索済みかと思っていたのに、まだまだ知らない場所があった事に

驚き師匠と呼ぶようになったのだ。


『兄ちゃんもうすぐ退院なんだって?』


と拓人が言う。


『うむ。さすが師匠、話が早いのだな』


と私が答えた。拓人の言うとおり、そろそろ退院が近いのだ。


『そっか〜遊び相手がいなくなるな〜』


拓人が寂しそうに言う。


『退院したら師匠が好きなお菓子をたくさん買ってお見舞いに来るから楽しみにしててくれ』


私は少し威張った感じでそう言った。


『あはは。楽しみしないで待ってるよ』


まだ拓人は寂しそうな感じがしている。

私が退院するから、という事が理由だけでもなさそうだ。


『よし、今日は兄ちゃんの退院のお祝いに特別な場所に連れてってやるよ』


そう言うと拓人はついてこいよって感じで歩き始めた。

私は持っていたジュースを飲み干して慌てて付いて行った。


たわいのない会話をしなが歩いて階段を登っていく。

人があまりいない方へ進んでいく。

この先に立ち入り禁止という看板があるがそのまま進んでいく。


『師匠?大丈夫なのか?立ち入り禁止になっていたぞ?』


と私が聞くと


『ばっかだな〜兄ちゃん。ダメだという先に行くのが冒険だよ』


と拓人が少年らしい発想で言う。

危険があれば私が彼を守るし危険があってこその冒険だな。

魔界で過ごしてた時はそんな事が当たり前だったのに

子供に言われてしまうとは。

と一人で納得して頷いていると


『兄ちゃん、何してんだよ。突っ立ってないでいくよ。怖いのか?元魔王様なんだろ?』


とニヤニヤして拓人が言ってきた。


『ワハハ。怖いものなどあるものか。元じゃない今も魔王様さ』


彼には異世界転生が流行ってる話から、自分もそうだと

雑談ついでに話したのだ。

まぁ彼は大人が子供に話を合わせてくれているぞ冗談だと思っているようで

少し小馬鹿にしている感じはある。

現実にそんな事があるはずないって思うのが普通だわな

そう思いつつ拓人に付いていく。


階段を上りきった先に扉があった。拓人がその扉を開けて外に出ると

屋上だった。


『ここはいつもの屋上?ではなさそうだな』


と私が不思議そうに言った。

病院で患者が行き来できる屋上があるのだが、そこは施設が整った所で

ここは殺風景というか何もないし、人が来そうな気配もない。


『ここは本来人が来るとこじゃないみたいななんだけど、今は特別に扉が開いてるんだ』

『こっち来てみなよ。この先にさらに上に上がれるんだ』


拓人の後について行き、さらに梯子をのぼると病院の看板がある場所についた。


『ここがこの病院で一番高い場所さ』


拓人が、へへん、という言葉が聞こえてきそうな感じで教えてくれた。


『おお〜絶景じゃ。周りが全て見渡せるの〜最高だ』


私は立ち上がって景色を堪能し大声て叫んでいた。


『兄ちゃん子供かよ。そんな大きい声出して立ち上がったらダメだよ。見つかっちまう』


拓人が少し焦って言う。

二人でそっと座り遠くを見つめながら

拓人は転生してトレジャーハンターになりたいだの

魔界は宝の宝庫だぜ、など

周りに人がいたら馬鹿みたいな話だと思われるような

話を真剣に二人で笑いながら話していた。


その後こっそり病棟に戻り拓人を送り届け

またな、と言って私は自室に戻ったら


『あ〜いたいた〜』

『おい、病院なんだからもう少し静かにしろよ』


と病室の前でこっちを見ながら甲高い声が聞こえてきた。

女性ともう一人は同期の眼鏡、山中大地だった。


ん?と思い私は勇者朝陽の記憶から女性を検索してみると

同期の田口来未(たぐちくるみ)という人物らしい。

なんとなく感じが犬っぽいな〜と思いつつ軽く挨拶をし

雑談をうまく朝陽になり変わって話をしていた時だった

ふと廊下の曲がり角に拓人らしき人物が見えたのだが

視線を送ると消えていた。

 

 気のせいか?


そう思いながら話を続けて二人を見送った。


 一方拓人は魔王様と別れた後、自室の前で魔王様事、朝陽に売店で買った

揃いのキーホルダーを渡すつもりだったのに忘れていたので朝陽の病室に

向かっていた時だった。笑い声が聞こえふと朝陽の病室の前を見ると

なんとなくだが邪魔しちゃいけないと思い、またでいいか、と自室に戻った。


 次の日以降しばらく拓人の姿はみなかった。

実際毎日会ってる訳じゃなかったので、今日はいないな、というくらい

だった。数日後におかしいな〜と思いつつ小児科病棟の近くに行ったり

したのだが拓人を見ることはなかった。


退院も間近になった頃、さすがにおかしいなと思っていると

看護士さんが私を呼びに来た。

何事だろう?退院の話か?と思ったら白衣を着させられて

とある病室に連れて行かれた。

そこには拓人がチューブをつけられ寝ていた。

私は衝撃を受けて言葉を失った。

つい先日まで私と探検をしていたのに?

看護士さんが本当はダメなんだけど、と


『拓人くんと話してあげて』


と私に言うのだが、なんと言っていいのか分からずにいると

拓人がそっと目を開けて


『よ〜兄ちゃん。来てくれてありがとう。んでこれ』


と、かすかな声で話し、

剣の形をしたキーホルダーを私に渡してきた。


『退院おめでとう』


そう拓人が言う。私は言葉を失う。ここでなんと言えばいいのか

分からず堪えていたが


『そんな顔すんなよ。なんとなくわかっていたからな』


拓人が力のない声で話す。こんな時に笑顔を出せるなんて

どんだけ強い子なんだ。逆にたくさんの修羅場をくぐってきた私の方が

圧倒されてしまっていた。


拓人の手を握りつつ、まだまだ冒険に行こうと言おうとするも

声が出てこない。情けない魔王様とあろう者が状況に負けてしまっている。

そこへ看護士さんが声を掛けてきた。


『ごめんなさい、これ以上は』


と言いこちらへと言ってきた。


『た……拓人、師匠、まだまだ知らない所はあるだろ?

私を連れて行っておくれ』


そう言ってその場を後にする。


外に出て看護士さんに


『あの子の親はどうしたのだ?もう来るか?』


そう問いただすも、看護士さんも少し顔を曇らせる。


『来る、とは思いますが、ちょっと、その訳ありの家庭でして

私の口からは細かいお話はできませんが、すぐ来られるかどうかは

わかりません』


そう看護士さんが言うが私は


『ちょっとも何もないだろう!我が子に危険が迫っているんだろう?

なぜ来ない?』


看護士さんに言っても仕方がないのだが私はつい

強く当たってしまった。


その後もう一度私が呼ばれ病室に入り

拓人の最後を看取った。


私はすぐ拓人と行った屋上に走った。

そして天に向って


『おい!女神聞こえてるか!彼を彼を呼んでやってくれ!!』

『出来るんだろ?私が帰るのが遅くなっても構わない、どこの世界でも良いから

彼の、彼の世界へ連れて行ってあげてくれ!』

『頼む、頼むよぉ……クソォ……』


 一方女神ルームでは女神アクアがモニターを眺めていた


『聞こえてるわよ。状況もわかるけど、そんな簡単に言わないでよねぇ』

『いつも一方的に召喚してるとはいえ、そうそう勇者が必要ってことにも

ならない事ぐらい知ってるでしょ?』


そう女神アクアがボソッと呟きため息をつく。

そう言ってアクアは席を立ちモニタールームから出て行ってしまう。


 場所は変わり魔王様のいる病院


屋上でボーッとしてる魔王様。

トボトボと拓人の元へと戻る。まだ両親は見えない。

後で噂話のように聞いたのだが、拓人の家は跡取りを

必要とする名家で、母親は実の母親ではなく

拓人の治療にはお金をいくら掛けても構わないという事で

最先端の治療を施すようにと言ってたらしいのだが

病院に姿を見せる事はほとんどなかったらしい。


 だが私はそんな事私にはもうどっちでもよかった。

 拓人の魂が安寧の地へと赴いてくれれば。


そう思い私は拓人からもらったキーホルダーを

そっと小さな箱に入れて大事にする事にした。

そして退院する準備に取り掛かる、とは言え

ほとんど妹御に任せてはいる。


時は少し戻り女神界。


『ん?ここは……一人の少年が目を開ける』


少年は真っ白な部屋がどこか分からずいるが

自分は死んであの世に来たのだと理解していた。


『あら、いらっしゃい拓人君』


人が誰もいないと思っていたので

後ろから女の人の声がしてれ驚き振り返ると

そこには綺麗なお姉さんが立っていた


『お姉さんは誰?」


と拓人が言うと


『私は女神アクアと言います』


と微笑む。


『女神様?』

『本当に?これは夢?僕は死んだはず?』


と拓人が信じられない状況を理解できずにいると


『そうね貴方は貴方の住む世界では死んでしまったわ』

『ここは異世界へと転生する人が来る所よ』


とアクアが優しく説明する。


『そんなことが本当にあるの?これは夢の中なのかな?』


拓人はまだ理解できずにいるがそこでアクアが


『あら?信じられない?貴方の近くにもいたでしょ?魔王様が』


そこで拓人は驚き


『え?朝陽兄ちゃん?本当にここから来たの?ほんとに魔王様なの朝陽兄ちゃん?』


拓人が驚きを隠せない表情でアクアに聞くが

知ってる人の名前が出てきた事に現実味を覚える。


『ふふ。そうよ。ここから貴方たちの世界へ行ったのよ』

『魔王様で、なんなら兄ちゃんではなく姉ちゃんよ』


と笑顔で答える。


声も出ない拓人。


『さて拓人君。貴方がこれから行く世界への説明をするわね』

『偶然、年老いて現役を引退したトレジャーハンターがいるのだけど

子宝に恵まれず、その技を継承できずに老後を過ごしているのよ』

『そこに貴方は子供として行ってもらうわ』

『断る理由は……ないわよね。その世界では勇者がいます。

なので貴方には明確な目的はないの。貴方は好きなように

冒険して、まだ知られてない世界の隅々を探索して冒険してきてね』

『そうそう、その世界に今魔王様はちょっと出かけてて不在なの』

『帰ってくるのを待っていてあげてくれると彼女も喜ぶと思うわ』


そうアクアが言うと拓人は目を輝かせて


『ああ!もちろんさ。兄ちゃん、じゃないや姉ちゃんか。

待ってるさ。そしてたくさんの宝物を見せつけてやるよ!』


そして拓人を転生させる。

見送った後アクアは


『今回は特別よ。もう勘弁してよね』


と独り言を呟き、転生ルームから出ていく。


そんな出来事は当然知らないの魔王様。

複雑な思いを胸に退院する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る