プリンはおいしい!

『お兄ちゃん、今日会社の人がお見舞いに来るんでしょ?』


ちょいちょい見舞いにくる妹の月依(つきよ)がお見舞いのおやつ食べながら

聞いてきた。


『ん?あ、あ〜なんかそんな事言ってたね』

『またお見舞いのおやつ目当てか〜?』


もぐもぐしてる妹御を見ながら私はそう言った。


『違うよ〜ふぉんなこほないよ〜』


椅子に座ってモグモグしながら真面目な顔でそう答えてくる。


 このヤロー可愛いじぇねーか。ギュってしたくなるが

 この体は朝陽のだ。私が私の至福を肥やす訳にはいかないのだ。

 なんとも不便である。

 そう思いながらも、実際お見舞いにもらうお菓子は

 とても美味しいのだ。

 先日頂いたプリンとやらは、美味しすぎてその日に

 売店のプリンを買い占めたくらいだ。

 その後すぐに看護師さんい見つかって食べ過ぎなので

 少し返してきなさいと怒られたのはつい先日の記憶だ。


『あ、そういや退院したら私、しばらくお兄ちゃんの家に住むからね』


急にそんな話をされて、どう対処したらいいのか分からないので

まずは朝陽の記憶から検索。一人で住んでいる事を確認。

と、そんな事を眉間にシワを寄せて検索していると


『退院したとはいえ、体調の事もあるし、ちゃんと栄養取らなきゃだし

お兄ちゃんコンビニ弁当しか食べてないでしょ?

まぁそういう事で、お母さんにも許可とってるし

すでに荷物も運び入れてるから、もうダメだって言っても遅いからね』


ふふん、という顔で月依がこっちを見てる。


 どうやら返答に困っていると思われたらしい。 

 誰が拒むものか。美味しいご飯が食べられるのなら

 願ってもない事だ。

 

『そっか。それならよろしく頼むな。一人で心細かったんだよ』


と私は答えた。実際これは本音である。いきなり放り込まれた

異世界で一人ぼっちは少し不安であったのだ。


『あら珍しく謙虚だね。いい事だ』


満面の笑みでそう言う妹御。


『夜一人で寝るのってちょっと不安だったんだよな〜

一緒に寝れば安心だな』


つい私の本音が出てしまった。病院のベッドはなんか分からんが

怖いのだ。百戦錬磨の私なのだが理解を超えた怖さがあった。


妹御が静かにうつむいて何やらモゴモゴしている


『一緒に寝るって、そんな、あれだよ、ぇっと

お兄ちゃんがそうしたいって言うんなら、わ、ワタワタシ私はぃやって事わ……』


 なんかまずい事言ったかな?

 真っ赤になってうつむいているとこを見ると 

 一緒には寝ないもんなのか?


その時だった


『よ〜朝陽、生き返ったらしいな』


 清潔感溢れる眼鏡キャラが来た。

 朝陽の記憶から同期の 山中大地 と言う土がたくさんの

 名前を持つ友人のようだ。


『朝比奈先輩は受付で用事すませてから来るって』


 そうこの朝比奈先輩、朝比奈由妃(アサヒナユキ)

 という人こそ朝陽の思い人なのだ。

 先日、一人で来られたのだが、泣いてしまって

 こちらが戸惑ってしまった。とてもいい人なのは

 私にも伝わった。

 どうやら一緒にいた時に勇者朝陽は階段、歩道橋という所から

 落ちたみたいだ。その辺の記憶は朝陽の中でごちゃごちゃして

 はっきりとしていない。頭を打ったせいなのだろう。

 そういう事情から色々責任を感じておられたようだ。

 そのせいでという訳でもなく

 私から見て朝陽に対して、それなりの良い印象を

 お持ちのようだった。

 妹御とも仲が良く、連絡を取り合っていたらしい。

 しかもプリンのチョイスが抜群だった。

 これだけで尊敬に値する人物だという事が分かるのだ。


『おぃ?朝陽どした?先輩が来るのがそんなに嬉しいのか?』


山中大地がニヤニヤしながらこっちを見てる。


 なるほど周囲にもそういう印象があるのだな。

 これは良いことかもしれん。この空気を保ちつつ

 良い関係を育てていけば、こちらからも帰還するゲージを

 貯める事になるやもしれん。

 とりあえずは勇者に貸しを作る良い機会だ。

 

『何言ってんだよ』


と私は朝陽らしく答え、適当にはぐらしておいた。


『あ、朝陽くん。元気そうだ』


と、朝比奈先輩が後ろから声をかけてきた。


『あ、先輩。とても元気ですよ』


と私は心配そうにする先輩の目を見つめてそう答えた。

そして、もう本当に大丈夫なんですって、と付け加えた。


 なんかいいのぉ〜

 ほんわかしてるわ。

 私、朝陽の意識と同調してしまって

 先輩を見てると心が暖かくなってしまう。

 朝陽の魂はここにはないが

 好きな人に対して体が反応してるのか。

 そう思えるような状況だな。

 本当、人とは不思議だ。


その後、これからの話だの

まだ来れてない同期の話だの

退院後の仕事の事とか

色々と話をしつつ、私は情報を集めて

朝陽としての生活基盤を認識していった。


『それじゃ〜な朝陽。そろそろ帰るよ』


と土だらけの友人が山中大地が言う。

朝比奈先輩もそれに続き


『じゃーね』



『先輩、来てくれてありがとうございます。おかげで

元気になりました!』


と私は朝陽は言いそうな事を言った。

 

 だが実際朝陽の体の調子が上がった気がするので

 嘘ではないのだ。


『ふふ、私の方こそありがとう』


手を振って見送る。もはや山中大地のことなど

視界の片隅にも映ってなかった。


二人を送り届け、妹御はもらったプリンを食べている。

私はどうしたものかと考えを張り巡らせていた。


『お兄ちゃんも食べる?』


そんな声も届かない。

 

 うーむ。凄く暖かい気持ちなのだが

 私であって私でないこの微妙な何か。

 恋愛趣味レーションゲームをしているような感じだ。

 いやそういうゲームをした事があるわけではないのだが。

 少し離れて朝陽を操って朝比奈先輩と良い関係を築くと

 なんか私も良い気分になるという不思議。

 ただ成功させてしまってはダメなんだよな。

 あくまでも朝陽として接し、良い関係のままを

 キープしておかないとダメ。

 最期の決めは朝陽本人の事になるからな〜

 え〜何この無理ゲーみたいな設定。


またしても眉間に皺を寄せて腕組みしていると

月依がこっち見ながら


『食べちゃうからね。』


と妹御。


 ん?よく見ると実に素晴らしいフォルムをまとったプリンを

食べているではないか!


『そ、それは!?そのとても素敵なプリンはどこに?』


と私は慌てて探す。


『もうないよ、さっき聞いたのに答えないから食べちゃった』


『ななななななな、ないの〜〜〜』


 クゥ〜私とした事が、プリンの存在に気がつかず

 深く考え混んでしまうなんて

 プリンの神様、申し訳ありません。

 ワタクシ一生の不覚であります。


今日はきっとプリンの夢を見る。

そんな予感をしつつ空になったプリンの容器を

涙を流しながらじっと眺める

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