スキルの使用には充分に注意してください

 私は今、勇者朝陽の体を借りこの世界にいる。

今日はリハビリという体を整える作業をする予定だ。 

借りてる体とはいえ、この体が不自由になれば困るのは今の私、

長い間、意識がなく寝たきりだったらしい、勇者朝陽の体は

すぐに動けるような状態ではなかったみたいだ。

リハビリはとても大変なのだが

幸い私にとっては、慣れない体を扱う練習に

とっても良かったのだ。


歩く練習から、低下した筋力を元に戻す為のトレーニング。

魔王時代も横になったらなんでかわからないけど

2、3回無駄にに腕立てとかしちゃってたな〜

数回で鍛えられるわけでもないのになんとなく

頑張ってる気になってる意味わからない行動だったな〜

と懐かしんでた時だった。


『きゃっ』


『おぉ〜すまんすまん』


何やら後ろが騒がしい。

振り返ってみると、女性の看護師さんと老人がもつれて倒れていた。


『津久田のおじいちゃん、大丈夫ですか』


もつれて倒れ下になってる看護師さんが心配して声を掛けていた。


『すまんなぁ。どうも足が痛くて、うまくささえられんわ』


 やはりリハビリとは大変な事なのだな

 老人も頑張っておられる。私も頑張らねばならぬな!


私はそう思って更なるリハビリに取り組んだ。

このリハビリの後には嬉しいことを悲しい事があるのだ。


まずは悲し事だが


汗かいたのでシャワーを浴びるのだが

トイレ同様、複雑な気持ちであるのだ。

なんというか、洗い方?がわからんのだ。

どこがと聞くなよ。あちこちだよ。男女の差が苦悩を呼ぶ。

悲しいがこれを乗り越えないと汗臭いままなのだ。

それはそれで許せん!


毎回葛藤が凄いがこの後の楽しみが私の心を躍らせる。


リハビリ→シャワー→

ときたら

そう!最近の私の楽しみはこれだ!


シャワー終わりの自動販売機。

最初見たときは何かの罠かと思ったが

勇者朝陽の記憶から検索し、飲み物がたくさん準備された

機械であることがわかった。

中の仕組みがとても気になるが、どうやら人は入ってないらしい。


 たくさんありすぎてとても迷うのだ〜♪


毎回自動販売機の前で眉間にシワを寄せつつ

たくさんの思考を巡らせる。


 どれを飲んでも美味しいのだが

 毎回お気に入りを飲むか、それとも新しい味にチャレンジするか

 このワクワクがたまらない。

 一番のお気に入りはこの


 デカビタD


というとても健康的になるらしい飲み物だ。

美味しい上に体にも良いというのはなんともまぁ素晴らしい。

これを飲みたいがあれもそれも気になるのだ


 流石勇者が住む世界である。

 これは素直に負けを認めようではないか!


そんな事を思いながらウンウンと頷いてる時にふと休憩室から

話し声が聞こえてきた。

先ほどの、頑張り屋さんの老人とその友人であろうと

思われる人物の会話であった。


 ナイスファイトと声を掛けようかと思った時


『津久田さん、あれはわざとじゃろ?』


と老人の友人が問いかけていた


『ワハハ。言うな言うな。若い人と触れ合えるチャンスなんじゃから』

『若い子の体は柔らかくての〜あれがないとリハビリもがんばれんわ。イヒヒヒ』


 な、何を言っているのだ、この老人は。

 なんともあの倒れるくらいの頑張りが

 看護師さんともみくちゃになりたいだけだったというのか。

 私と看護師さんの純粋な思いを踏みにじりおって。

 この外道め!


うぬぬ〜とぶん殴ってやろうかと思ったが

この世界で揉め事を起こしてはならない。

朝陽があちらで貯めている幸せゲージのパワーを

減少させてしまい、魔界へ戻るまでの時間が長くなってしまう可能性がある。

敵対している勇者と今は連帯責任の状態なのだ。


あまり良い気分ではないが

ここはいちごオレでも飲んで気分を変えるか。


『あま〜い。うま〜い』


つい声に出てしまったが

あまりの甘さに怒ってた事も忘れ

自室に戻ろうとしてナースセンターという看護師さんが

たくさんいてる側を通った時だった



『津久田さんを今日転ばせてしまったでしょ』


『あれはダメよ。ご無理のないように補助をしっかりしてね』


『はぃ。すいません』


『リハビリのプラン見直してみては?』


などという看護師さん同士の話が聞こえてきた。

どうやら老人のリハビリを担当してた看護師さんが

少し年配の方に注意を受けているようだった。

あの老人はわざとなのだ!と言いたいが

そこはなんの根拠もない話になってしまう。


 何なら納得がいかぬが

 私にはどうすることも出来ないのかもしれないなぁ

 若い看護師さんの濡れ衣をなんとかしてあげたいものだ。

 そう思いながら、いちごオレに刺さったストローを

 一気に吸ってジューッと音と共に飲み干した。

 ベコっと箱がちっちゃくなった、ちょっとかっこいい私、と思った。


 次の日


私はいつものリハビリをこなしている時だった


『おっとっと〜。あ〜すまんのぉ〜』


む、この声はあの老人か。

振り向くとまたあの老人が看護師にもたれかかっている。

それは仕方がない事ならいいのだが

老人はニヤニヤして、看護師さんの体をあちこち触っているではないか!

看護師さんも困り顔だ。

後ろでまた年配の看護師さんの目が、いやメガネが光っている。


 これ以上の狼藉を許すわけにはいかない!

 善意に対して悪意で返す輩には鉄槌を下さなければ!


 と考えてみたものの暴力はダメだしな〜

 う〜ん。

 そうだ、スキルだ。威嚇のスキルが微力だが使えるって話だったな。

 ふふふ、借り物の体だとはいえ魔界の王たる私の威嚇、威圧を受ければ

 ふざけた態度も改めるだろう。


私は老人をじっと睨み見つめた。

あちらにこちらを認識させて罪の意識を持たせてから

威圧する!


老人と目があった。


今だ!

私は目力で老人を威嚇し威圧した。


バンっ!!!


と音が鳴りそうなくらいの目力で威嚇をした。

魔王時代からすれば微力だった。

だったのだが。


『キャ〜〜〜〜〜』


看護師さんが慌て叫ぶ。

よく見ると老人が泡を拭いて倒れている。


『あ……』


と私は声を漏らしたが

そんな声が聞こえてないくらい現場はパニックである。


 し、しししまった。

 やりすぎ?たかな?

 アハハ。

 ど、どうしようかな〜

 これは、ふ、不可抗力っていうのかな〜

 私のせいかな?違うんじゃないかな〜?

 えっとぉ。

 とりあえず逃げよう。アハハ、ごめんなさい〜


パニック状態の中

若い看護師さんがまた年配の方に怒られている。

老人は目を覚ましたようだ。

これに懲りて悪い事はダメだぞ!と

思い、自分を正当化しつつ

私はこの場を後にして自室に走った。


アハハ、ハハハ、はぁ〜


使い方には気をつけよ。


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