第17話
「人は自分が正しいと思えば思うほど辛くなる」17
仕事帰りー幾人の他人とスレスレに擦れ違う改札口をロボットのように越える。ホームに降りて自販機の横にある排気口近くに寄り掛かると生暖かい風が吹いている。視界に入る人は全員孤独に見える。それぞれが自分の人生を歩んでいるが自分の歩みに満足しているようには見えない。それが正解と言えば正解になるかも知れないが不正解と思えば不正解になる。正しい事なんて無い。今日は正しいかもしれないが明日には不正解になる。目の前に起こる現実が真実であり事実なのである。受け入れるも受け入れないもその人の選択であって他人には関係ないことである。自分の選択肢によって苦しんだり悲しんだりと心は常に揺らいでいる。
誰も悪くないし全員が悪い。
私と違う意見があって私と同じ意見がある。でも、他人だから明日には変わっているかも知れない。
ホームに滑り込んできてる電車に乗る人の中に私と同じ意見が幾つあるのだろうか、明日には変わっているかも知れないが……。
「何、難しい顔してんだよ」
振り返るとトラジがマミと手を繋いで笑っている。
「マミ…トラジ」
私はなんとなく出て来た涙を手で拭った。
「何泣いてんだよ」
トラジはテレクラのティッシュをくれた。
「お母さん!」
突然だった。
「マミ」
「お母さん!今日は何食べたい?パパと話してたの、今日はお母さんの食べたい物を作ろうねって」
「マミ!言うなよ」
トラジはマミの頭を撫でながら言った。
マミの突然の“お母さん”に衝撃を受けたと同時に心のパズルの歯抜けにピースがはまった気がした。
「業務スーパー寄って帰ろうぜ」
トラジからも“業務スーパー”という似つかわしくない単語が出たのにも驚いた。
トラジの皮ジャンなのに黄色い幼稚園児のカバンを肩掛けにしてる姿も不自然だがほっこりした。
私達は夜中の電車に揺られながら我が家へ帰る。結露した電車の窓からは点々と街の灯りが流れてゆくー。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます