第16話

「人は自分が正しいと思えば思うほど辛くなる」16


 西口の高級キャバクラ店が奈緒を欲しがっていて環七沿いのマンションを寮として奈緒に用意した。出勤はボーイが毎日迎えに行くという契約を持ちかけてきた。

 私は奈緒にこの世界の女は寿命が短いからよく考えろと伝えたが奈緒は私に何も言わずに高級キャバクラ店で専属として働き出した。

 しばらくは奈緒の広告媒体は私が担当していたが外されてしまった。


 奈緒と疎遠になりたまに風の噂で奈緒の事を耳にするようになった。


 そして3年ー。

 お店は不景気になり奈緒の誕生日パーティーを企画して再起に賭けると言うことで私に媒体の声がかかったのである。


「鏡さんお久しぶりです」

奈緒は笑っているが疲れている表情をしている。何処か他とは違う雰囲気も無くなり着飾ったお人形さんのようになっている。綺麗だがそれだけの置物のようであった。私が知っている奈緒は何か持っている生身の人間であったのだが街を歩いていて綺麗だなと思う程度に成り下がっていた。

「元気にしてる?」

「はい。皆優しくて毎日が楽しいです。今日も私のためにこんなに素敵なパーティしてくれてアタシは幸せです」

「そっかぁ」

「鏡さんと約束したてっぺん取れました」

「そっかぁ良かった」

私は奈緒に興味が無くなっていた。


 奈緒はこの世界を自由に飛び回り自分の魅力に気付いて欲しかった。そして、誰かに使われるのでは無くて使う側になって欲しかった。私から見た奈緒には人を惹きつけるカリスマ性があると思っていたのである。

 しかし、目の前の美味しいケーキの誘惑には負けてしまったのである。


 私とカメラマンは一通りの撮影を終えて店を出た。


 店の前にはプレゼントや花束を持った奈緒の客が並んでいる。奈緒の着飾った写真が飾られていて客はその写真を撮影している。レンズを何枚も通してみる奈緒は賞味期限のある商品になっていた。


 はぁ…。


「どうしたんすか、溜息ついて」

カメラマンが聞いてきた。

「今日はマミに何を作ってあげようかなってね」

「マミちゃんのお迎えは?」

「トラジが行ってくれる」

「トラジさん変わりましたね」

「そう?」

「あの人めっちゃ怖いですよ。雰囲気が」

「知ってるの?」

「知ってますよ。トラジさんと同じ歳の先輩たちも怖がってましたもん」

「そうなんだ」

私達は徒歩で事務所まで帰ったー。


つづく

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