第15話

「人は自分が正しいと思えば思うほど辛くなる」15


 私は広告のグラビアに奈緒を起用してもらうようにナムナムと言う雑誌社に掛け合った。その雑誌は合法的なお店を扱った雑誌である。

 私は奈緒をフリーの嬢と言うキャッチフレーズでキャバ嬢をしたり風俗嬢をしたりと神出鬼没の“嬢”というジャンルを作ってしまおうと思ったのである。奈緒は美人でもないしコミュ症であるが時折見せる流し目が男の心を鷲掴みにすると踏んだのである。何時になく仕事に燃えていた。


 私は奈緒のマネージャーとしてあちこちの店と雑誌に売り込んだのである。名刺は何も書いていない白い紙に“奈緒”とだけ書かせた。名刺にレア感を持たせるためである。

 しかし、何処からも連絡の無いまま三ヶ月が過ぎた頃に“オフィスR”と言う多忙店の風俗店から一日ヘルプを頼まれた。私は奈緒を連れて直ぐに店に向かった。

 店長は奈緒を見て溜息をついて私に小声で「何処にでも居そうな娘だね」と言いながら笑っている。

 店の掃除係のバイトに奈緒の講習させてから店に出すとのことで私はやる気の無い奈緒にガッツポーズを作って店から出た。


 午前中に奈緒をオフィスRに預けてから夜の八時まで外回りをした。ヘトヘトになりながら事務所へ帰ると高木さんが慌てている。

「お疲れさまです。どうしたんですか?」

「大変だよ!奈緒の次のスケジュールとどこの店に所属してるのか電話が殺到してるんだよ!オフィスRさんからも正式に欲しいってさ!」

「え?」

「取り敢えずは今日と明日はオフィスRさんに入れておいたよ!んで、12時に店長が奈緒をここに送ってくれるってさ」

「12時?え~!」

「お前はマネージャーだろ!責任持って待ってろよな!俺は帰るぞ!」

「マジっすかぁ!」

高木さんは慌てて帰って行ってしまった。


 仕事を一通り終えてからお泊まりセットを持ってサウナに行くことにした。

 サウナのビルの屋上はバッティングセンターになっていてストレス解消にバッティング する事にした。


 ビル街に浮かぶ満月に向けて何度も何度も野球ボールを打ち込んだ。

「そのまま東京タワーまで飛んでけ!!」

私は汗をたくさんかきながらバッティングを続けた。


 12時過ぎにオフィスRの店長が奈緒を連れて来た。奈緒と店長は友達みたいな会話をしている。かなり打ち解けて居るみたいだった。

「鏡さん!奈緒ちゃんうちに欲しいよ!この娘凄いよ!ついたお客さんが全員延長してきてさ!帰り際に奈緒ちゃんの次の予約までしていくんだよ!うちのバイトも金払ってでも相手して欲しいって言っててさ!何も宣伝してないのに凄いよ!」

「ホントですか!」

「もう明日の予定はオープンからラストまで埋まってるよ」

「奈緒凄いじゃん!」

「鏡さんありがとう!アタシてっぺん狙うよ!」

奈緒の表情が変わっている。キラキラしてるというか目覚めたというかなんとも言えない輝きをはらっていた。


 それから奈緒の“フリーの嬢”は歓楽街へ浸透していった。契約店は増えていき神出鬼没の演出を各お店も連携してくれた。各お店のナンバーワン嬢たちもたまにくる奈緒に脅威を抱いていないと言うことであった。逆にナンバーワン達から自分の専属として奈緒を呼ぶことも出て来たのである。


つづく

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