第14話

「人は自分が正しいと思えば思うほど辛くなる」14


 西口にあるキャバクラの奈緒はナンバーワンである。誕生日には店がイベントをセッティングして奈緒の指名客がプレゼントを持って詰め寄せるのである。私は次の広告の素材の為にカメラマンと店に取材に来ている。店の前まで貢ぎ物を持った客が溢れている。私達はその中を無理矢理に押しのけながら店内へ入った。


「鏡さんお疲れっす」

ボーイの樋口がドンペリを並べながら挨拶してきた。樋口をこのお店に紹介したのは私である。樋口は駅前で路上ライブをしていたがその内ホームレスになって公園で生活しているときに知り合った。


 店の奥にある舞台にはウェディングドレスのような華やかなドレスを着た奈緒がゴージャスな椅子に座っていた。

「鏡さん!来てくれたんだ」

「奈緒ちゃんおめでとう」

「ありがとうございます!」

奈緒は嬉しそうに手を振っている。


 カメラマンは奈緒を色んな角度から撮っている。


「鏡さんのおかげでここまで来れました!」

奈緒が言うー。


 3年前であった。


 高木が、上司の高木さんが奈緒を事務所に連れて来た。

 明らかに挙動不審な目つきのボサボサに痛んだ髪の少女は私の席に座っていた。出社した私は不機嫌に「高木さん!あの娘はなんですか?」と聞いた。


「少年院から出て来たばかりの女の子だよ」

「その娘がなんで私の席に座ってるんですか?」

「堅いこというなよ。お前は外回りばかりして会社にあまりいないだろ?いいじゃんかよ」

「そう言うことじゃないですよ。あの娘どうするですか?」

「なんか良い案はないか?ネタになるようなね!風俗嬢にするのは在り来たりで面白くないだろ?」

「他人の人生を面白がらないでくださいよ」

高木は反省しているふりをしながら煙草を咥えた。

「取り敢えずなんか面白い事考えておいてくれよな」

高木はそう言って事務所から出て行ってしまった。

 私は溜息をつきながら女の子を見た。

 女の子はぼぅっと天井を見ていた。


 私は何も言わずに外回りの支度をして事務所を出た。


 夕方ー。

 事務所に帰り扉を開けると女の子が振り返った。

 振り返る女の子は流し目で私を見た。その瞳にドキッとしてしまった。

「あ!」

私は女の子に近付いた。

「閃いちゃった!」

女の子の手を握った。

「天下取ろうか?」

女の子はキョトンとしている。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る