第9話

「人は自分が正しいと思えば思うほど辛くなる」9


 トラジは自称探偵だがなんでもやる少し危険な男である。私と知り合ったのは上司がヤクザの女に手を出してそれを仲裁にトラジが入った時からである。トラジは男前だが掴み所の無い人で周りからも少し線を置かれている。私もトラジとは少し線を置いている。


「何か知ってるの?」

私は珈琲を入れながらトラジに聞いた。

「確定じゃ無いけどさ、池袋から新宿の辺りでね。面接して手間賃貰って消える女が荒らしてるみたいでさぁ」

「え?」

「多田野組と金井組が合同で調査してるんだよね。んで俺にも依頼してきたんだよ」

「それってヤバくない?」

「二つの組が合同で調べるなんてなぁただ事じゃ無いのは間違えないね」

私は直ぐに山田店長へ電話した。

「もしもし!山田店長?」

「どうしたんですか?」

「児童相談所への連絡は少し待ってください」

「なんで?」

「この件はヤバそうですよ!しばらくマミは私が預かりますからまだ児童相談所への連絡は控えてもらえませんか?」

「ヤバいってなに?」

「その内に山田店長の耳にも入るはずです」

「恐いなぁ解ったよ!なんかあったら連絡してよね」

「ありがとうございます」

私はマミとトラジを見ながら電話を切った。

「今の誰?」

トラジはマミを膝の上に乗せている。マミもトラジに懐いているみたいだった。

「担当店の店長…てか、なんでもうマミと仲良くなってんの?」

「え?さっきからもう仲良しだよね?」

「うん!」

マミの声も明るい。少しトラジに嫉妬している。

「ご飯食べながら続き話して貰っていい?」

「いいよ。何作るの?」

「ハンバーグ!」

「俺作ろうか?」

「え?作れるの?」

「マミちゃんに美味しいの作ってあげるよ!」

トラジはそう言って革のジャケットを放り投げて台所へ向かった。

 何故だかマミが嬉しそうにトラジを見ている。


 トラジのハンバーグはめちゃくちゃ美味しかった。ふわふわでジューシーでソースも美味しかった。

「あのさ~二人とも食べてばかりで話を聞けよ」

マミと私はハンバーグに夢中でトラジの話を聞いていなかった。


つづく

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