第2話

「人は自分が正しいと思えば思うほど辛くなる」2


 八代のおすすめの新人さんはギャル系の美由紀と名乗った。

 先月に静岡県から家出してきて渋谷で知り合った男の家に暮らしていたが暴力が恐くて寮付きの風俗店を探していたと言った。なぜ風俗で働こうと思ったのかを聞くと「贅沢したかったから」と言った。私は“この子は見た目は良いけど空っぽ”だなと思った。

 美由紀は笑顔だがどこか無表情な感じで無気力な雰囲気であった。“この娘は売れないな”と感じた。


 一通り美由紀と話をして雑誌に顔出しをしても良いと許可をもらった。スタイルも悪くは無くてグラビア枠には微妙だが上司に掛け合ってみることにした。

 帰り際。美由紀が深々と頭を下げてきたのが印象に残った。


「ナイナイかマンナイでいけるんじゃない?」

上司は美由紀の写メを見ながら言った。

「かなりハードじゃないですか?」

「バカっぽいから何でもやれそうじゃん!八代店長に言ってみなぁ多分喜ぶよ」

「解りました」

ナイナイとマンナイとは雑誌の名前で、スカトロやsm を扱うお店専門の雑誌である。


 撮影日ー。

 八代のお店の一室からは首都高速が直ぐそこに見下ろせる。私はベランダでベイプを吸っている。三人の男優と撮影スタッフがスタンバイしている。

 美由紀は少し怯えた様子で下着になっている。

 撮影が始まるとかなりハードであった。美由紀は三人の男優に群がられて見ていられないほどの扱いを受けている。時折、美由紀の嫌がる声が聞こえてきて私は耐えられなくなり部屋から出て非常階段へ出た。

 美由紀は自分で望んでやっている。贅沢がしたいからと言う理由で身体を捧げている。美由紀がそれを望んでやっていることであり私はその場を用意しただけだ。何故か手が震えている。

 これは罪悪感?いや恐怖なのかな、私も少し間違えば美由紀と同じ事をしていたのかましれない。


 撮影が終わって呆然としている美由紀にタオルをかけてあげた。撮影スタッフと男優達は撤収が早くて部屋には私と美由紀しか居なくなった。


「鏡さん…アタシはこれでいいのかな…」

美由紀は涙でぐしゃぐしゃになった化粧で言った。


 もう遅いよ


 そう思ったが言わなかった。

「こんなにハードな撮影にも耐えられたんだから美由紀ちゃんは稼げるよ」

「ありがとう」

「シャワー浴びて!お化粧したらさ!買い物行かない?」

「え?」

「頑張ったから私が何かプレゼントするよ」

「嬉しい!」

美由紀の表情は明るくなってシャワールームへ入っていった。

 こういう世界では商品のメンタルをフォローする役目が必要で八代店長は私に仕事以外で女の子達のメンタルケアを依頼しているのである。

 裏バイトである。


 私と美由紀は渋谷まで行って、アメリカンカフェでランチしてから公園通りを歩いた。

「鏡さんみたいな格好いい女になりたいなぁ」

「私なんて格好よくないよ」

「そのバッグはどこの?」

「これはBALENCIAGAってとこのヤツで使いやすいの」

「高いでしょ?」

「そんなでも無いよ」

「良いなぁ」

「バッグ見に行こうか?プレゼントするよ」

「アタシは田舎者だから詳しくないよぉ」

「選んで上げるよ」

「ホントに?やったぁ」

美由紀はさっきの撮影のことなど忘れているかのようにはしゃいでいる。

 一通り渋谷、原宿を歩いてMIU MIUのピンクのバックをプレゼントしてあげた。

 美由紀は喜んで買った新しいバッグを早速使っている。それまで使っていた静岡のリサイクルショップで買ったバッグを公園のゴミ箱に棄てていたー。


 一生懸命にコンビニでバイトして貯めたお金でやっと買ったと言っていたバッグをいとも簡単にゴミ箱に棄てるなんてと、少し可愛く思えていた美由紀を軽蔑した。


つづく

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