前世の記憶にて

第3話

2月13日 ____ 。


多くの男子は女子からチョコを貰えるか、はたまた朝机に入っているのではないかと胸をドキドキさせる 。

今からでは遅いのにちょっと女子に優しくしてみたり 。


バレンタイン前日である 。


『バレンタイン』


はっきり言って僕はこの行事が大嫌いだ 。

見ているぶん、カップルが誕生するぶんには大いに結構だ 。(何ならそこだけ切り取ってみていたい)

だが、僕には理解ができない 。あの茶色だのピンクだの白だの甘い禍々しい食物チョコレートを野郎に与え愛を伝える意味が 。


僕だって甘い物が嫌いな訳じゃない 。

鈴カステラなんか一番好きなお菓子だ 。


このバレンタインに行われる告白という青春イベントが僕も対象でなければ、まだこんなにもバレンタインを嫌う事はなかっただろう 。


2021年2月14日中2の春____

今年はバレンタインが日曜日だった 。



ピロンッ


『 明日朝早く学校来れる?? 』


通知画面にはその一言だけだった 。

でも、大体の内容はこの一言だけで理解できるだろう 。(自意識過剰とか言うな)


メッセージの相手は同じクラスの片桐かたぎりはる(当時14) 。

吹奏楽部部長並びに学級委員長を務める真面目な人だ 。

席が4回連続隣になったことがある 。


だからといって何かあるわけじゃないが、前日のメッセージなど危険信号でしかない 。

僕は、恋愛は完全に見てる派 。神の目線派だ 。


『朝は友達と行くから無理かと』


完璧だ 。別に嘘はついていない 。

友達と行くのは本当だから 。ただ別に絶対の約束じゃないだけで 。

その後何回か遠回しに断ったが、


『じゃあ放課後少し時間くれない?』


まだ食い付いて来るか 。

くそ…これ以上断るのは良心が痛むぞ… 。


『まぁ、放課後なら』


(うぉぉぉぉぉ、この時の僕!ほんとに許さないからな?)


次の日の学校の憂鬱さやらなんやら、おまけに吹奏楽部の部員、隣からは片桐さんの目線がチクチクと刺さる 。


ラノベで現実逃避しよう。




そんなことをしていたらいつの間にかもう放課後である 。

「忘れていた」といって帰っても良いのだが流石に僕もそんな薄情な奴じゃない 。


「「さよならー!」」

次々とクラスメート達が教室を出て行き、先生すらもそそくさと出ていった 。


くそ…皆敵か… 。

ん?あれ…?片桐本人がいないぞ?


数分待ったが現れなかった 。

ほほう。遊ばれたって訳か 。陰キャがしゃしゃんなって言う警告だったわけだ 。


ルンルンと今にも効果音が付きそうなくらい上機嫌で帰宅する 。


『〇〇公園でいい?』


……は?


放課後学校でではなく放課後着替えて態々わざわざ会おうということか?


良いといった手前断わる亊など不可能である 。

ささっとジャージに着替えてポケットにある物を詰めて家を出る 。憂鬱ゆううつだ 。

さっきの楽しかった時間を返してほしい 。


待ちあわせ場所に付けば、彼女の手には紙袋 。

まぁ、放課後二人きり、チョコらしき紙袋 。告白だろう 。


「好きです、付き合ってください。」


ザッツライトである 。

こんな僕に告白するとは…


勿論答えは


「ごめん」 Noである 。

「今そういうの考えてないんだ」


「そっか…わかった!ありがとう!」


にっこりとした笑顔でちゃっかり小さな紙袋を渡された 。

帰ろうとする彼女に、


「ちょっとまって!これ、お返し 。」

ポケットから取り出したのは家にあった少し良さそうなお菓子 。


片桐さんは、渡したその日にお返しが来るなんて思って見なかったであろう 。吃驚びっくりした表情だ 。


チョコが渡される事は100%分かっていた 。

ホワイトデーにまたお返しのために会うなんてまっぴらごめんである 。

だから親に少し良いお菓子を出しておいてくれと頼んであったのだ 。


手に持ってる紙袋に一旦目を落としてから重い足を引きずりながら家に帰った


告白も断ったし、もう追い掛けて来ることもないだろう。

____

ポスンッとベッドに寝転べば、メッセージアプリを開いて


『どうにかできたんじゃないのか?』


とメッセージを送る 。

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