第29話 南志見の決意
「仲間も大事かもしれない。でも、優先順位は間違えない方が良い。自己犠牲は美学だが虚しいだけだ。自分の思いに素直になった方が良い」
放課後。いつも集会所。そこに行くとカスミがいて、目が合うなり聞き覚えのあるセリフを言われる。
「熱いねー。いやー、熱い熱い」
「最近、カスミがやたらイジってくる件」
もはや、どこで聞いていたなど聞くまい。こいつのステルス性能はプロ並みだ。そんなプロがあるのかなんて知らないけど。
「ああ。その時は俺のところへ来い」
「もうやめて……恥ずかしい……」
手で顔を覆い、地団駄を踏む。改めて聞くとめちゃくちゃ恥ずかしい。
「なんで? かっこいいじゃん。にしし」
「ここに来て個性的な笑い方しないで。もう穴があったら入りたい。あ、あったわ」
そう言ってカスミのスカートを指さす。
「ちょっとそこの間に入らせてもらいまーす」
「はあ!? なに言ってんの!? 変態!」
「うるせー! 人を恥ずかしがらせたんだからスカートの中に入るくらい良いだろうがっ! パンツ見てーんだよ! 入らせろ!」
「欲の塊っ!? バカなの!? バカだよね!?」
「ふざけんなっ! なら、おっぱいで良い!」
「バカレンレン!」
思いっきり尻を蹴られてしまう。
「アウチッ! 我々の業界では最高のご褒美だぜ」
「くそっ……。この変態に弱点はないの?」
「俺の弱点はおっぱいを見せる。それだけで行動不能だぜ」
「こいつだめだ。早くなんとかしないと……」
ぐぬぬ、となっているカスミに「ざまぁ」と言いながら着席する。
「ま、カスミも見てたら状況説明はいらないよな?」
「あ、うん」
カスミは切り替えてくれて本題に入る。
「これからどうする?」
「そうだな……。南志見は今、精神的に来てるからな……」
「そりゃ酷いこと言われても簡単に友達を切れないよね……」
「カスミや南志見はそうかも知れない。でも、島屋みたいに簡単に切る奴もいる。南志見は運悪くそいつと仲良くなってしまったってだけだ。そこで切り替えれたら良いけど、俺たち高校生には難しいよな」
「だねー」
「もしかしたら時間かかるかもな。告白まで」
「精神的に傷ついているのに告白してもだもんね」
「だな。だから小山内さんには悪いけど、もう少し待ってもらうか。いつ、あいつの傷が癒えるかは知らんけど」
カスミが指を顎に持っていき俺を見てくる。
「なに?」
「いや、レンレンのところに南志見くんが来なかったの?」
「んにゃ。来ないな。一応、あんなことは言ったけど、やっぱ、俺と南志見の信頼関係は島屋ほど深くはないからな。簡単には来ないだろうよ」
「じゃあレンレンから行ってあげたら?」
「ええ。やだよ」
「なんで? 良いじゃん」
「俺は根本的にラブコメ野郎が好かないんだよ」
「このままじゃ依頼達成にならないよ?」
「ええ……。まじで言ってんの?」
「俺のところへ──」
「やめて! もうやめて!」
そんなやり取りをしていると部屋のドアがノックされる。
「ババアか?」
「あ、また怒られるよ?」
カスミが俺に言ったあとに「どうぞ」と声をかけると、中に入って来たのは──。
「や」
「ラブコメ野郎か」
南志見だ。意外にも早く来たな。
「ラブコメ野郎ってなんだよ」
「うるせぇ。クソ野郎」
「なんでそんな扱いなんだ!? 俺のところへ来いって言ってたのに」
「うるせーばーか! そこに座れ」
俺は南志見を適当なパイプ椅子のあるところへ座らせる。
「で? なんでここがわかった?」
「いや、富田先生に聞いたらここだろうって」
「サッカー部は?」
その質問に南志見は俯いてしまう。
「レンレン……」
俺の服の袖を、クイクイとしてくるカスミ。
「あ、ああ。ごめん。無神経だったわ」
「いや、大丈夫」
南志見が首を横に振ってくれる。
「サッカー部は正直、顔出しづらくてな。島屋と合わす顔がないし、あいつが部内でなにを言い回っているのか怖い。ほんと……ヘタレだよな。俺……」
「それは違うな」
俺は強めに南志見に言ってやる。
「行きたくもない場所に行かない、喋りたくもない奴と喋らない、それはヘタレじゃない。英断だと思う。どうして日本人は戦うことを美徳と考えるのかわからない」
「でも……ケジメはつけたかったな……」
「それってのはお前の自己満足だろ? それになんの価値がある?」
言うと南志見は「そうだな」と苦笑いを浮かべた。
「ま、サッカー部をサボって俺のところへ来たってことは、決意は固まったか?」
「ああ。俺は円佳が好きだ。誰にも渡したくない」
南志見の真剣な顔に「おお」とカスミが声を漏らす。
「あ……そ……」
「ちょっと! レンレン! 反応薄っ!」
「だって、それを聞いたから、なに? って話しだろ。あとは好きによろしくじゃない?」
「まぁ……だねー」
そもそも、俺たちの依頼は小山内さんからだ。南志見じゃない。
だねー。
そんなことを耳打ちで言うと南志見が頷いた。
「高槻の言うとおりだ。間違いない。これは俺の問題だ。だけどさ、高槻の言葉があったから、俺は前に進めた。礼だけ言いたくてな。ありがとう」
南志見が立ち上がり深く頭を下げると部屋を出て行った。
「ありゃ、近いうちに告白するな」
「だね」
ふぃーと、椅子に深く座る。
「ようやく依頼達成か。長かったー」
「そう……だね……」
カスミがどこか寂しそうな声を出した。
「打ち上げでもする?」
次の瞬間には明るい声を出して聞いてくる。
「正式に依頼が達成されてからだろう」
「だね」
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