第28話 友情は儚いもの
見守ることしかできないと言ったが、それは南志見と小山内さんの行方のことであって、自分が当事者の件についてはその限りではない。
俺は俺で被害を受けているのだからシャシャリ出ていいだろう。
そういうわけで俺は島屋を屋上に呼び出した。もちろん、ふざけたラブレターで。
「ね? レンレン」
「カスミ。お前は本当に良いやつだな」
「それはどうもだよ。でも、流石に二回目はないよ」
「良いじゃん。目には目を。サイコパスにはサイコパスだろ」
「確かに屋上に呼び出してサボテン待機はサイコパスだけど、二回目は色々とつまんないよ。慣れてしまっている私がいるよ」
「俺たち、同じ小学校だったら、最高のサボテンを学校関係者様、保護者の皆様、在校生たちに披露できたのにな」
そう言うとカスミは「はぁ」と大きくため息を吐いた。
そして、ピョンと飛び降りる。
「カスミいいい!? なぜ降りた!?」
「まぁ……色々思うことがあって」
「なんだ!? 言ってみろ!」
言うと「良い加減気付けよ……」とボソリと言われる。
「ぬ? おこなの?」
ショボリーヌとなるとカスミが笑顔で言ってる。
「怒ってないよ。てか、ほら、もう昼休みも終わりだよ?」
言われてスマホを手にすると「ぬおおお! まじだ!」と声が出てしまう。
「島屋の野郎! ブッコロス!」
「普通は来ないと思うけどね」
※
地元の駅で島屋を待ち伏せする。
いつか、あいつは地元をチャリで爆走していたからな。ホームでまっとけば来るだろう。
カスミは島屋が怖いから先に帰って行った。
俺の特性ラブレターを無視した罪は重いぜ島屋。
そんなこんなで、駅のホームで待ち続けること数時間。現代はスマホがあるからいくらでも待っていられるね。
夕暮れ時になって電車からターゲットが降りてきた。
「来たか──ぬ?」
見ると、島屋と共に降りてくる人物──南志見が一緒だった。
「これは……」
もしかしたら南志見のやつ、島屋と片をつける気か?
ふむ……。
「行くっきゃないっしょ」
※
なるほどな。
二人の後をつけていると状況がわかった。
南志見をひたすらに無視する島屋という最悪な空気である。
駐輪場に入っても島屋はひたすらに無視をして南志見が困った様子である。
俺はチャリとチャリの間に隠れて様子を伺う。
「島屋……俺は……」
先程から、モゴモゴと南志見が喋りかけている。
南志見。お前は本当に裏切らないな。それでこそラブコメ主人公だ。そのヘタレな感じ。くくっ。もっと、モゴモゴしてろ。そして爆ぜろ。
「聞いてくれよ……島屋……」
まぁ島屋の立場もわかる。
南志見が決意を固めたのなら、もう自分に勝ち目はないと言ったところだろう。
ま、黒幕にはもっと派手に散って欲しかったが、この地味に散るのも、奴には相当なダメージだろう。
「なん──だよ……」
「え?」
「なんなんだよ! うっとうしい!」
お? 喧嘩か? 喧嘩か?
「さっきからずっと後付けて来てうざいな! さっきからなにが言いたいんだよ!? あ!?」
ビクッとなる南志見。
ラブコメ主人公らしく、態度もヘタレか……。見た目はイケメンなのにな。ぷぷ。
「お、俺は──!」
グッと拳を握りしめて、カッと島屋を見る南志見。
「俺は……円佳が好きなんだ。昔から……」
おお。言った。ちょっと背中むず痒いな。
南志見の思いを聞いて島屋は明らかに不機嫌な顔をする。
眼鏡を何回か、スチャリンコすると、キッと南志見を睨みつけた。
「お前さ……。俺の思い知ってんだろ?」
「ああ……」
「だったら、なんで今更そんなこと言ってくんだよ?」
「それは……」
あかん。南志見が押されている。
「俺とお前は友達だろ? なのに、なんでそんなこと言うんだ? だったら、なんで俺が思いを言った時に一緒に言ってくれなかったんだ?」
あたかも、まともな意見に感じるセリフを言い放つ。これ、事情を知らなかったら罪悪感に襲われるやつだな。事情知ってるからなんも思わないけど。
「だって……」
あかん。南志見の奴が幼稚っぽい言葉を出した。
だってはあかん。主人公的にNOだ。
「最初から言ってくれれば俺は思いを言わなかった」
壮大にため息を吐いて島屋は言い放つ。
「もうお前なんて友達でもなんでもねぇよ。全部お前のせいだからな」
チャリの鍵を開けながら、ナイフのように鋭い言葉が南志見の胸に刺さった。
南志見は後悔しているような顔つきに変わる。
言わなければ良かった。そんな感情だろう。
これはいけませんな。
「おい、サイコパス野郎!」
良い加減見ていて胸が痛くなったので俺が参戦する。
島屋は予想外の人物が現れたので、チャリの鍵を開けたポーズで固まった。
「高槻……」
南志見が俺を見て呟いたので、軽く手だけ上げて挨拶をしておく。
「お前ふざけんなよ」
俺のふざけんなには色々な意味が含まれている。
「あ?」
「俺の特性ラブレター無視しやがって」
一番ふざけんなは、やっぱラブレター無視の件だな。
「やはりお前か……。このふざけた手紙は」
律儀に制服のポケットに入れていたラブレターを取り出して、島屋は、グシャグシャにした。
「ああ!? おまっ!」
「お前こそふざけんな!」
オウム返しの言葉は俺よりも怒りを含んだように思える。
「俺の計画全部無駄にしやがって! ああ!?」
島屋は怒りを露わにして俺の方へ、ドスドスと歩いてくる。
「お前が拓磨にチクったからややこしくなっただろうが! ああ!?」
俺の胸ぐらを掴んで酷い言いがかりをしてくる。
「そもそもお前の計画がうまくいくと思っていたのか?」
「あ!?」
「それで小山内さんがお前に振り向くと思うのか?」
「そ、それは──」
「そんなことしてなにになるのか考えたのか?」
「う、うるせー!」
言ってやると島屋が殴りかかってきそうになった。
顔面に受けるだろうと気張った時だ。
ガシッと島屋を止める南志見の姿があった。
「島屋! やめろ!」
「拓磨……お前が……お前さえいなえれば……クソがああ!」
そう言いながら島屋は腕を振り解いてチャリに乗る。
「拓磨……。お前の周りに人が集まると思わないことだな。クソボケ!」
「島屋……」
南志見はオーバーキルのダメージを受け、その場でヘタレ混む。
「南志見。お前はここまで言われても島屋に気を使うのか? 一緒にいたいと思うのか?」
「俺は……。島屋は……大事な……」
おうおう。もうここまでいくと偽善者だね。
「仲間も大事かもしれない。でも、優先順位は間違えない方が良い。自己犠牲は美学だが虚しいだけだ。自分の思いに素直になった方が良い」
「高槻……。俺は……」
「これはお前の問題だ。だから、お前の好きにすれば良い。これ以上はなにも言うまい」
そうして俺はその場を去ろうとすると「高槻!」と声をかけられる。
「お前は言ったよな!? 居場所がなくなれば俺のところに来いって。それ、本当だよな!?」
俺は振り返り、にニカっと笑ってやる。
「ああ。その時は俺のところへ来い」
それだけ言って俺は駐輪場を後にした。
──数分後にこっそり戻ってチャリを取りに来たのは南志見には秘密だ。
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