邂逅する女たち
あははっ!唐突な少女の笑い声。けたたましい位に突拍子もなく。
「私ったら何してるんだろ、まるでバカみたいじゃない?」
そうじゃない?ねえ?ヴィル・ヘムの女はリュミエンヌと名乗った。
そして目の前の黒衣の女もリュミエンヌを名乗る。この世界では16歳は立派な大人だ。結婚していてもおかしくない年頃の二人は魔導士であり、世界の秘密を解き明かす”探索者”でもある。
笑ってよ…笑えない?ねえ、もう一人のわたしさん。ほら、不機嫌面じゃダメじゃない?こんなじゃ話は続けられないわよ。これから…。
ヴィル・ヘムの女は語調を変える。ハッと嘆息して顔を逸らすとイヤイヤ言葉を継いだ。
「残念だけど、これからもっと辛気臭い話になっていくのよ?」
それはひっそりとしたささやき声、聞こえただろうか?眉間の眉が曇る。口元が歪む。これじゃ間が持たない!ねぇ、貴女は我慢できる?ほら…。
誘い水を向けるが、黒衣のリュミエンヌは突っ立たままの姿勢で固い表情を崩さない。
冷ややかな視線を向ける彼女は不意にプイと視線を逸らす。むくれたわけじゃない。そんな子供じゃないんだからからと女を睨む目線がちぐはぐだ。なんだかうまくいかない、な。
一方でエキセントリックな振る舞いで場の空気を換えようとするヴィル・ヘムの女はまるで舞台女優のようだ。ちょっと蓮っ葉な雰囲気で、むしろ相手を挑発しているようにも見えた。”自分”を説き伏せるはずだったのに…結構無理をしてるのよ。
「イライラしてるのはどっち?」
黒衣のリュミエンヌはもう一人のリュミエンヌに問いただす。
こちらも投げやりで辛らつな口調。すっかり気まずくなってしまった。
それをノワールはお手上げと言わんばかりと呆れた風情で見つめるばかり。誰も火中の栗には触れたがらない。周囲のヒトには誰も本当の人間がいないことがより一層、困惑の度合いを増していた。
こういう話じゃないんだけどな…。それはどちらともなく。
そこで図らずも二人の意見が一致した。
だから…身にまとうドレスの裾を翻し、つかつかとヴィル・ヘムの女はリュミエンヌに足早に歩み寄ると問答無用とばかりに彼女を抱きしめる。
あっという間のことだった。その場に居合わせた誰もがあっけにとられる性急さで、ヴィル・ヘムの女は抱擁と言った穏やかなものではない。相手を説得するといった強い意志の下に行われるそれだった。
信じて!とにかく信じて!嘘なんかつかない、騙したりしない。
罠なんかじゃないの、だから聞いて、話を聞いて。お願いだからあなたの時間をわたしに頂戴!お互い腹を割ったうえで聞いてほしいの。
畳みかけるように訴えるヴィル・ヘムの女、いやリュミエンヌの本体は必死で訴えかける。分かって…お願い。女は目を伏せ、抱きしめたリュミエンヌに全身を預けるようにもたれかかる。
そのまま時が止まったような瞬間が訪れる。沈黙が支配するとき…。
「しょうがないなぁ」
と、リュミエンヌ。ちゃんと聞いてあげるわよと苦笑いするような口調でヴィル・ヘムの女の気持ちを受け止めるリュミエンヌは自分を目一杯に抱きしめる女の両腕をほどきながら、その両手を強く握りしめ、すかさず女の頬にキスをした。
突然のリュミエンヌの行為にびっくりするヴィル・ヘムの女に彼女は優しく笑いかける。
「これでおあいこよ」
と、リュミエンヌ。
「これからは貸し借り無しで行きましょうよ」
まだ、わだかまりが解けたわけじゃないけど、あなたは私。そうじゃない?、だから…
「信じるわ」
わたしはあなただもの。やっぱり嫌いにはなれないじゃない。と照れくさい笑みでリュミエンヌははにかんだ。
二人のリュミエンヌが手を取り合い和合するさまに、事の顛末を見たノワールやロゴス、ペネロペたちは、ホッとし、また一同の安堵する雰囲気に周囲は和やかな空気に包まれたのだった。
”今度”はうまくいったのだろうのか…。許しあい認め合う二人や傍らで見守るノワールらの間には実は見えない溝が奈落の底にまで続いているのかもしれないがと、ロゴスは傍らに立つペネロペの手をそっと握って耳元にささやいた。
「リュミエンヌから目を離すな、油断のならぬ相手だということを忘れるな」
ペネロペは目線で返す、どちらの方を?
「”どちらも”だ」
私はノワールの振る舞いには十分気を付けることにしよう。とロゴスは考える。”あれ”の考えは読み切れない。
そしていつかは、まさかとは思うがヴィル・ヘムの”脅威”になるやもしれぬからな。
いつも色恋には刃傷沙汰はつきものなのよ?と唐突にペネロペ。
言わんとすることがわからんがとロゴス。それには答えず,
「血の契約」ですって?と彼女はせせら笑う。未開の”道祖神”が…
それらの会話は目の前の”彼女たち”には聞こえないし、にこやかな表情を変えないペネロペが言葉を継いだ。
気にしないで…「独り言」よ。
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