第26話⁂謎の若い女!⁂
紫色の藤の花が咲き誇る*・❀
1954年5月のある日の事。
A氏は同郷の同じ小学校で1級下の、呉服問屋の井上幸子と言う女性からの電話に唖然とするが、もうあの大空襲で当時を知る人物などいないだろうと諦めていたにも拘らず、突然の電話に懐かしさで一杯。
A氏は家庭の事情で20年前に家族共々、横浜に引っ越していた為に長岡大空襲は免れていたのだが、何とも嬉しい電話にびっくりして、取るものも取り敢えず東京に向かった。
望郷に思いを馳せるA氏は、忙しい仕事のさ中、余りの嬉しさに胸の高鳴りを抑える事が出来ない。
早速、井上幸子と名乗る女性と、お互いが分かるように首に青いスカ-フを巻いて渋谷ハチ公前で落ち合った。
すると、もう45歳にもなると言うのに、白いワンピ-スにブル―のスカ-フを首にさり気なく巻いた、何とも清楚な美しい女性に釘付けになったA氏。
「お~い!随分変わって~?グウウウウ(´;ω;`)ウッ…あまりにも綺麗になっているから分からなかったよ?」
A氏が感極まって涙しているにも拘らず「…本当に?私は直ぐ分かったわよ!ケンちゃん」
笑顔を向けながらも何とも不気味な……時折見せる不吉な眼差し、一体この女は何者なのか?
「じゃ~久しぶりに昼食でも一緒に取ろうじゃないか」
こうして和気あいあいとレストラン街に消えた2人。
そこで高級料理の数々に舌鼓を打った後、駐車場に案内された幸子ちゃんはあの当時では珍しい高級車に大喜び。
「キャ~!嬉しいこんな高級車に乗れるなんて夢のようだわぁ~!」
1954当時自家用車を所有する者は、大企業の社長さんが運転手付きで乗るくらいの時代。
そんな時代に高級車でさっそうと現れたA氏。
商店街の酒屋や米問屋等々の商売人が、主に運転するものだった時代なのだ。
このA氏もバーやスナック、キャバレ―、レストラン等を経営している為に、当時ではまだ珍しい、お客様の送迎目的で自家用車を所有していた。
そんな、まだまだ車は庶民には手の届かない時代に、乗用車に乗せられて有頂天な井上幸子と名乗る女性は、””キャッキャ!キャッキャ!””と大はしゃぎ。
「ワァ~!バスか電車にしか乗った事が無いから感激~!ケンちゃん凄い出世ね!」
「そんな事はないさ~?うちの店にも親から売られて来た娘も多いんだよ……だから性病等で若くして死ぬ娘も多いんだ!……まあ~そのおかげでこちとら…良い思いをしているが?」
「ケンちゃん私が長岡時代のお友達に会うと言ったら、娘も是非とも会いたいと言っているのよ!新宿まで行ってくれない?」
どれだけ車を走せたのか暫くすると?
「新宿駅だけど……これからどこに行くんだい!」
「ああ~?そこの裏の路地に入ってくれない?」
東京だと言うのに人通りの無い閑散とした路地に入って行った。
すると、そこに濃い真っ赤な口紅に、描き眉、マニキュアなどの厚化粧を施した、あの時代の象徴パンパンそのものの、若い女性と言うには憚れる、まだあどけさの残る女性が下品極まりないポーズでタバコを加えて、まるで男を誘うような眼差しを向けていた。
その恰好は、身を持ち崩したパンパンそのものにしか見えない。
カールやパーマなどの装飾的な髪型、パッドで張った肩の原色の赤いブラウスに短いスカート・明るい色のネッカチーフ(スカーフ)にナイロンのショルダーバッグそれにサンダル姿。
「サッ!サ幸ちゃん君の娘さんかね?」
不安になり問い詰めるA氏。
「そうよ!止めて頂戴!」
そのパンパン風の女性の眼差しが一瞬鋭く光る。
「私車のシ-ト倒して眠るわね!アヤ後は頼んだわよ!社長のお相手?フフフフ」
この井上幸子は、自分の正体を隠すようにシ-トを倒した。
この後何が起こったのかは不明なのだが?
その3日後に、A氏は愛車と一緒に神奈川県の山あいに有る相模湖から変わり果てた姿で、発見された。
この40代半ばの女性井上幸子とは何者なのか……?
井上幸子の後を追う刑事なのだが……。
レストランで井上幸子と食事中の姿を最後に、A氏は行方不明になったと言われているが、A氏をよく知る人物が東京湾近郊の公衆電話脇でA氏の乗った車を、発見していた。
すると、いかにも目立つ派手なパンパン風の女性と話していたかと思うと、その若い女性は車から降りて公衆電話ボックスに入り、何やら電話を掛けていたと言うのだ。
深夜の12時頃自動車に同乗していた女性は、レストランで食事をしていた40代半ばの女性井上幸子とは似ても似つかない、まだ若いパンパン風の女性だったとの情報に啞然とする刑事Z。
井上幸子とあの派手な若い女性は、A氏とどのような関係に有るのか?
【赤線は、GHQによる公娼廃止指令(1946年)~(1958年)売春防止法の施行までの間に、公認で売春が行われていた日本の地域である。赤線区域、赤線地帯などと言う】
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