第14話⁂貴美子と初美!⁂



 貴美子が社長宅に押しかけて行ってからというもの、社長も貴美子が何を仕出かしてくれるかハラハラドキドキ。

 やがて月日は流れ貴美子は、お産が終わり一ヶ月の休職ののち、職場に復帰したのだが、当然結婚という形はとっていない。


 それでも社長としても、初めて出来た我が子が可愛くて可愛くて仕方がない。

 そんな可愛い娘が誕生したばかりだというのに、出産が終わり僅か1ヶ月ほどで『職場に復帰したい』と言う貴美子には本当に困ったものだが、致し方ないこと。

 仕方なく、我がままも聞き入れたのだった。


 貴美子も社長から十分すぎるほどのお金も頂戴している身の上、家で子守をしていれば良いものを。


 実は、社長にねだり我が子には乳母を付けて、出産して僅か1ヶ月余りで仕事復帰を果たしていたのだが、それは、一にも二にも{家で子守をしている間に、また初美と寄りを戻すのでは?}

 そんな危機感を感じて、居ても立っても居られず、出産して間もなく職場復帰を果たしたのだ。


 だが、会社の社員一同は貴美子が社長の子供を出産した事を全く聞かされていない。

それは初美とて同じで、極秘事項なのだ。


 そんな事情もあり、あれだけ初美と行動を共にしていたにも関わらっず、最近は初美との行動も抑え気味。

 社長も致し方なく貴美子同伴で出掛ける事も増えている。


 会社でのスケジュール管理、重要な来客対応など、主に社内でのデスクワークに追われる日々の初美。


 そんな折、【ATホーム】の設計室が社長室と同じ階にある事から、設計部の有能な若手エリ-ト社員、工藤と顔を合わせる機会が増えて行き、やがて工藤が、何かに付けて声を掛けてくれるようになり、お互いの家庭事情も僅かながら分かって来た。


 そんな時に、社長と貴美子先輩が実は、もう何年も前から只ならぬ関係にある事を知り、精神的ショックを受けた初美は苦しみ抜く。

 最近、何か思いつめた様子の初美に、いち早く気付いた工藤は、何か有ったのか心配でたまらない。


【ATホーム】本社は神奈川県横浜市中区○―○○。

 初美のアパ-トは貧困層の多い事でも知られる横浜市○○○町にある。


 仕事も終わり家路を急ぐ初美が、バス停でバスを待っていると「アッ!バス一緒の方向なんだな~?一緒に帰ろうよ?」と偶然を装って声を掛けて来た工藤。


 そして20分位で○○○町に着いたのだが、初美はこんな貧民層の多い場所の住民だと知られたくなかったので、ワザと乗り過ごした。


 街並みが少し変わった所で初美が、下車しようとすると「もう7時だし物騒だから送って行くよ!」


「…嗚呼~?良いから!良いから!」


 初美が降りると一緒に降りた工藤。


「…でも……?最近初美さん元気が無いけど何か有ったのかい?時間も有るし喫茶店でお茶でもしようか?」

 初美は少し考えるが………。


 最近は社長の事を考えると、辛くて辛くて眠れない日々を送っていた初美は、気分転換に一緒にお茶を飲んだ。

 初美はこの工藤の屈託のない明るさに救われる思いがした。


 この事がきっかけとなり、お昼の休憩時間にお昼ご飯を、一緒に食べに行ったりするようになっていた2人。


 社長も最近初美が社長と距離を置いている事は気付いている。

 それは当然の事。

 社長と貴美子の関係に気付かない訳がない。


 何故初美が社長と貴美子の関係に気付いたのか?

 それはある日の夏の夜の事。

 蒸し暑さに加えて社長宅の風鈴が、何とも風流に心地よい響きで、鳴り響いている夏の夜の事。


 初美が書類を届けようと社長宅に伺った時に、お手伝いさんに通され玄関のドアを開けた時に見た女性の靴、あれは紛れもない一介の社員が到底履く筈のない舶来品の高級靴、その靴こそ、あの華族出身の貴美子の靴だという事を。


{最近貴美子さん体調不良で休職中だけど何故社長宅に……?}

 まさかとは思ったが、ピ~ンときた初美なのだ。


「エエエエエエエエエ――――――――ッ!私と関係を持ちながら、貴美子さんともこんな関係だったの~?」


{それでも、何かの事情があって伺っているのかも知れない?}


 一抹の不安を感じながらも…噓であってほしいと願うばかりの初美。

 それからというもの2人の行動に目を光らせていると、ある日のお昼休憩時間に、

休憩を早く終えて秘書室に向かった。


 するとその時、2人の激しい言い争いを耳にした。

 はっきりとは聞き取れなかったが「私を○○遊んだの○○すぎる!」

 何かそのような、はっきりとは分からないが、言葉が耳に入って来た。


 その数日後に、ひょんな事から先輩の事務員さんから、社長と貴美子2人が付き合っているらしいという噂を知らされたのだった。

こんな理由から初美は社長とは、仕事だけの関係にしようと距離を置いている。


 社長も可愛い赤ちゃんも生まれた事だし、初美も身を引いた事だし、何の弊害もない訳だから万々歳、もう貴美子と腰を落ち着ければいい事を!


 それが、そういう訳には行かない。

 初美と工藤の行動を貴美子から聞いて、居ても立っても居られなくなった社長は初美と仕事で同行した際に、自分の思いの丈を打ち明けた。


「最近私を避けているようだが、何故だ?」


「それは社長には貴美子さんと言う女性の存在があるからです。最初から社長と結婚出来るなんて思ってもいませんでしたが、私も社長の事が好きだったのでこんな関係になってしまったのです。私は病気の母を抱えている為、今会社を辞める訳には行きません。だからもう仕事だけの関係にして下さい!」


「そんな…?そんな……?俺は初美ちゃんの事が好きだ!だからそんな事言わないでおくれ!」


「私を愛人として傍に置いて置きたいとおっしゃるのですか?……そんな馬鹿にした~」

「違う!絶対に違う!………貴美子とは絶対に別れる!俺を信じてくれ!」


 その夜2人は、またしても寄りを戻してベッドを共にしたのです。


「愛しているよ~*・*💛⋆。⋆」


「ア~うれしい❣私もよ~*・💋⋆。」


 そんな関係が続いたある日、今度は初美が妊娠したのだ。

 昔の避妊具は現代のように完璧な素材で出来ている訳ではないので、いろんな問題があった。


 やがて万里子お嬢様が誕生。

 社長も{愛する初美と娘の為にも、どんな事をしても一緒になりたい!}

 そう強く願うのだった。


 その為には貴美子の存在が邪魔。

 強引に貴美子との関係を清算するべく、貴美子を石川県金沢支店の支店長として出向させた。

 もうその頃には貴美子の娘も3歳になっていたので、乳母付で出向に出したのだ。


 社長もあんまりだが、好きじゃないものは、どうしても好きになれない。

 暇さえあれば、愛する初美の悪口ばかり、その挙句に初美に強く当たる貴美子には困り果てている。

「これでは初美が可哀想過ぎる!」


 最近は、余りにも結婚をしつこくせがむ貴美子に{どうしたら良いものか?}

 考えあぐねている。


 そこで{石川支店を盛り上げてくれて、栄転して帰って来た折には結婚する!}とその場限りの口実を付けて送り出したのだ。


 そしてどうしても一緒になりたかった初美と結婚したのだが?

 これを機に恐ろしい事になって???

















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