第9話⁂木村直樹!⁂



「……あなたは橋の向こうの住民らしいじゃないの~?フン汚らしい!傍に寄らないで!あなたが持って来た物なんか汚い!こんなポテトチップスなんて~!えい!」


 ””グシャグシャ””と踏み付けた少女めぐみなのだが、このめぐみという少女は一体万里子お嬢様とどんな関係に有るのか……?摩訶不思議な存在。


 そこには、この家庭環境が関係している。

万里子お嬢様は、これだけの豪邸に住みながら、お手伝いさんと護衛の者が常に2人常駐しているだけで、両親を目撃した者は誰一人としていない。

 一体両親は何者で、本当にいるのか………?


 会社経営者なのか?

 または、昔からの大地主で大富豪の家庭のお嬢様なのか?

 それとも、とんだ極悪人で悪事に手を染めた裏社会に通ずる極悪人の娘なのか?


 どこから、この豊かな生活を送る資金が出ているのか?


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 あのポテトチップスをグシャグシャに踏み付けられ、泣いて泣き疲れて帰った、あの日の翌日の朝、今まではあんなに楽しみだった布団の中でのおまじないも止めて、そそくさと一階に降りて、土間で朝食を取り、朝ごはんの後片付けを済ます静子。


 もう窓の外を見る気にもなれない静子なのだが、2階に上がり窓口にふっと目を向けると、あの美しい万里子お嬢様がしょぼくれた表情で窓際に立っているではないか……?


 どれだけの時間、外を眺めていたのだろうか………?いつも手を振ってくれる時間から優に1時間以上は過ぎていただろうか?


{万里子お嬢様は、きっと私がいつものように窓際にやって来るのをズ~ッと待っていたのだわ!だって~?いつもだったらこの時間ピアノの音が聞こえていたから~、きっとこの時間はピアノを弾いてから学校に行っていたのね?}


 静子の姿を目にするや否や、高台に住む豪邸の万里子お嬢様が勢い良く手を振ってくれた。


 そして余程思い詰めていたのか、恥も外聞もかなぐり捨てて、かなりの距離があるにも拘らず、耳が裂けるのではなかろうかと思う程の大きな声で「……あの~?……もう一度・・オウチにいらっしゃって~!」


 あれだけ温厚なお手伝いさんも、世間体を気にして慌てて窓を閉めている。

 その時に慌てて、手を合わせて申し訳なさそうに懇願するお嬢様の姿を見た。


 静子も折角出来たお友達と、これっきりになるのは余りにも寂しい事。

 早速その日の午後にその豪邸に向かった。



*****************

 若い娘達の事。

 あれだけ散々罵っていためぐみだが、いつの間にか打ち解け合いすっかり仲良くなった3人。


 万里子お嬢様とめぐみちゃんは、九州の野球チームで福岡ダイト―イーグルスの大ファン。

 福岡ダイト―イーグルスの選手の中でも特に、2人は木村直樹の大ファン。


 球界の王子様と持て囃されている、その甘いマスクに加え、剛速球で向かうところ敵なし状態の剛腕投手。


 高身長に加え映画スタ-をも上回るそのイケメンぶりに、あの当時多くの女性ファンを虜にしていた球界一の大スタ-。


 今日はその大スタ―を拝めるかもしれないと思い、万里子お嬢様とめぐみちゃんは、その時若干17歳と16歳。

 1972年の5月27日に福岡球場で行われた試合を見に行ったのだ。


 その日の先発投手はやっぱり木村。

 2人はキャ―キャ―大騒ぎ。


「やっぱり素敵な方ね!❣」


「本当に素敵!💛」


 2人が木村の一挙手一投足に目を凝らして見ていると、やがて木村は出番を終えて脇に引っ込む。

 するとその時に最前列に座っている中年の男に、何やら話しているではないか……?


 更にはよくよく見ると、その横にいるのは、最近親しくなった静子ではないか、これは一体どういう事なのか?


 2人は慌てて最前列の静子の居場所に向かった。


「しずちゃんあなたもいらっしゃってたの~?」


「ああああ?・・・まさか、こんな所で会うなんてビックリね!」


 するとその時、あのイケメン投手木村が、2人に微笑んでくれた。


「……ああ~?初めまして!」


 2人は余りのイケメンぶりに言葉が出ない。

 憧れの木村に笑顔で微笑み掛けられ余りの嬉しさに失神しそう。


「……アッアッ!ハハッ!ハ ジ メ マ シ テ!」


 顔を真っ赤にしてやっとの事で、その言葉を発した2人。


「……2人ともどうしたの~?そんなに緊張して!……私木村の兄貴とは知り合いなのよ?」

「アアアア~!僕はしずちゃんの事は子供のころから知っているから、今度また一緒に食事でも・・・?」


 やがて静子の友達で万里子お嬢様とめぐみちゃん、更には静子に木村4人での友達付き合いは、加速して行く事になる。


 そんな時に木村は、万里子お嬢様の控えめで出しゃばらない、かと言って真のしっかりした美しい万里子お嬢様に惹かれて行く。


 だが、球界一の剛腕投手で大スタ―のモテ男木村には、万里子お嬢様の意図しない、女性問題が勃発。


 更には静子の隣りに座っていたあの中年男が、のちに恐ろしい存在として係わってくる事になる。


 また球界一の剛腕投手で大スタ―の木村には、色んな過去や諸々の複雑な家庭環境が浮き彫りになって………。

















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