第107話 香月さんとデート③

 嬉しい! 嬉し~~~い! 


 ……そして、幸せだ……。


 こういう時間を今までに、ず~~っと夢見ていた。


 夢じゃないんだ! 


 これは現実なんだぞっ!


 これからは、こういう時間がいくらでも持てる。慌てることはない。そうだ余裕を持とう。


「どうしたの? にやにやして」


 やっぱりわかるか。デレデレして、とは言われなかったけど。


「こういうところで、二人だけで歩くのって、本当に楽しいなあ……」


 しみじみ感慨に浸る。


「そんなににやにやしてると、ほかの人にどうしたのかしら、って不思議がられるわよ」


 まあそれでもいいんだけどね。今や、何を言われてもいいや、って心境だ。


「日差しは、あったかいわねえ」

「うん、あったかい」


 このままでも幸せな気持ちだったのだが、急に彼女の安心しきったような顔を見て不安になった。彼女は僕のことをどのくらい好きでいてくれるのだろう。こちらが一方的に思っているだけだったら……。好きな度合いが、かけ離れているんじゃないだろうか……。


 どうやって確かめようかな。


 僕を好きな度合いは……どのくらいなのか?


「出会ったときから、香月さんにはピンとくるものがあったな……。ほかの女の子とは違う、と思ってた。香月さんから見た、僕の第一印象ってどうだった?」

「そうねえ……優しそうで、話しやすそうな人だと思ったわ。サークル室で見た時に、気軽に話しかけられた。ハードルが低いっていうのかしら」

「そう……それは良かった」


 僕はその時に一目ぼれしたようだが。


「僕は、友達になれたらいいな……それから、仲良くなれたらいいな……って、思ってた。だから、友達になれてよかったし、こうしてデートもできるなんて、感激!」

「私は……第一印象に比べてだけど、夕希君は優しいだけじゃなくて、頼りになる人だ……と思うようになった」


 これはいい流れだな。


「そして、今は香月さんが……好きになった」

「……あ……」


 ああ~~~っ、ここで止まってしまった。


 何をためらっているんだ、香月さん!


 その先を言ってしまえばいいんだ!

 

 ためらうことはない! 


 ガシッと受け止めるよ!

 

「だから……」

「う……うん」


 はあ……まあ、いいや。楽しい時間はまだまだ続くんだから。焦ることはない。


 気持ちを落ち着けろ。


「体が温まったことだし……今度はポニーを見に行こうか!」

「ああ、いいわね! 行ってみよう」


 ときどき彼女の手に触れたり、髪の毛をそっと撫でる。髪の毛はふわふわして、柔らかくて、まるで綿毛のよう……。


「ふんわりしている……」


 この触り心地……まるで……羽毛布団のよう……。例えがおかしいか……。でもそんな感じだ。


 寒い日に、暖かいものにふんわり包まれているような、うっとりとして夢見るような……。


 優しい触り心地……。


 おお、柔らかい……。


「あの……髪の毛が……」

「あ……触りすぎた」

「いいんだけど……だんだん絡まってくる……

「ごめん……」


 近くで、ポニーが笑っている。


「ひょうきんな顔ねえ」

「愛嬌がある」

「動物を見るのもいいわね。自然に帰って」

「うん、動物はいいな……」


 いい流れだなあ。


 このままさらに距離を縮めたい。だけど、日差しが傾いてくる。


 時計を見ると……あれ、いつの間にか四時になっている。こういうところは、閉まるのが速い。確か五時にはクローズだった。


 ―――その時、突然電話に着信があった。


 もうっ、こんないいところでっ!


 誰だよっ!


 僕は、スマホを取り出し、電話には出ず、思い切り親指を押し付け、切った!


「いいの、出なくて?」

「ああ。大した用じゃないさ、どうせ……」


 な、な、なんと、電話してきたのは――――


 ――――日南ちゃんだった……。


 ハア……。


 いいところなんだ。後にしろよ……と、心の中でつぶやきながら。


 しばらく、柵の前で二人並んでポニーを眺める。太陽が沈んでいくのを眺めるのも悪くない。時間の経過さえも、愛おしい。う~~ん、いいなあ。


 ―――すると、今度は、スマホにメールが入った。


「あれ、大丈夫、何か用があるんじゃないの?」

「いいや、いいんだ」

「あら、あら」


 うるさいなあ、今度は誰だよ!


 ちらりと着信の相手を見る。


 あれ、またしても日南ちゃん。


 しつこいぞ!


 と無視して二人きりの甘い時間を味わっていた。ほんと、素敵だなあ二人で夕日を眺めるなんて、最高の日だ!

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