第105話 香月さんとデート①
いよいよ香月さんとのデートが始まる。といっても、彼女とは大学ではいつも顔を合わせているわけだが、がぜん今までとは気分が違う。
僕たち付き合ってるんだ……と、自慢したくなる気持ちを抑えるのが大変だ。
「おはよう、今日の気分は?」
なんてきざな言葉をいうと、
「まあ、まあよ。おかしいっ……ふっ」
なんて言葉が返ってくるわけだが、二人きりの秘密を抱え、ドキドキわくわく感はすごいもので、心臓が飛び跳ねそうになる。
「今日サークル室へ行かない?」
とメールを送ると、オッケーという返事が来た。
確か、今日は上村君のバイトの日。もちろん彼にはメールを送っていない。
約束の時間になり、部屋で待っていると香月さんがやってきた。
「どうしたの、サークル室へ行こうなんて。何か相談でもあるの……」
と僕の顔を覗き込むが、
「って、違うわね」
と自分で答える。
「上村君は誘ってないから……」
「あら、やっぱり……」
「ここでデートも悪くないかな、って思って……」
「はは~~ん、節約ね」
「そうじゃないよ。すぐ会えるし、ここは先輩たちもほとんど姿を見せないから。まあ、座って」
「じゃ」
目の前に香月さんが座る。向かい合っていると、彼女は圧倒的な存在感がある。
髪の毛をすっと耳にかけたりすると、ほんのりピンク色の頬が現れる。口元はそれよりもさらに赤く血色がいい。
あこがれの人……今目の前にいる。
「あのさ……ここってサークル室だよね」
「そりゃ、そうだけど……」
「別に……おしゃべりをしていてもいいんじゃないのかな、旅行についてとか、色々」
「そうね」
「……本を見てもいいよね?」
「うん……どうぞ」
香月さんは、海外の旅行案内書を手に取った。フットパス同好会だから、旅行案内関連の書籍が置かれているのだ。手に取っているのは、イギリスの旅行案内書。
「いいなあ……行ってみたいわ、いつか」
「そうだね……だけどなかなかすぐにはいけない」
僕の方は、国内の旅行案内書を見つけパラパラとページをめくる。
「羊が歩いていて、遠くに湖が見えて、綺麗な景色……こんなところを歩いてみたい」
「国内でも似たような風景のところはありそうだ」
「どこかな……」
「ほら、この辺なんかどう?」
「ふ~ん、牧場があって、牛や羊がいるわね、確かに似ている」
「この辺って、上村君の出身地の近くじゃないの」
「そうだな」
かなり遠いし、行くのは大変だ。
「フットパスにこだわらなければ、海の見えるところもいいんじゃない、波の静かな穏やかな海」
「冬の海は、荒れていることが多いわよ」
「そうだな……冬の日に断崖絶壁に立つ……なんてちょっと怖いかな」
「サスペンスの現場みたい」
なかなかどこかへ行こうという話にはならないが、パラパラと眺めているだけでも楽しい。未来への夢が広がっていく。
香月さんも、国内旅行の本を手に取った。
「あら、ここは……冬でも楽しめる牧場」
「ちょっと、見せて。ここなら近いから日帰りができそうだし、楽しめそう」
「ほんと、行ってみよう!」
と話はすんなり決まり、彼女と休日に行くことになった。
さあ、そうなったら上村君を誘うかどうかだが……。これはサークル活動の一環なのか、二人きりのデートなのかどちらだ。
「二人で行く?」
「う……ん。どうしよう……」
ちょっと考えているしぐさ。だってここはサークル室。今は活動中、のつもりになってる。
「上村君を誘うかどうか……だけど、彼は……」
佐宗の予想と思っていると、
「まあ、いいわ。二人で行こう、今回は」
と香月さんが返事をして、二人で行くことになった。これはまさしくデートだ。
そうなってくると忙しい。天気予報を見たり、目的地までのルートを検索したり、ガイドブックで見どころを確認したり、やることがいろいろある。それにその日まで時間がいくらあっても足りないくらいの気分になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます