第102話 恋愛談義(光さん)③

 風呂の中では、誰でも湯気が立ちそれなりに格好よく見えるものだ。血色もよくなるからなおさらだ。


 鏡の中でポーズをとる。


 筋肉は……ちょうどよい具合についていて、確かに引き締まって見える。すらりと伸びた足、ぜい肉のない腹部、それに続く胸部、われながら素晴らしい体型だ。


 おお、かっこいいかあ。


 我ながら見とれてしまう。女性に裸を見られたことはないけど、服の上からでもスタイルはかなり分かる。夏などは、容易に想像がつくだろう。

 

 う~ん、僕って自分で思うよりかなり格好いいのかも……と、眺めていたら寒くなってきた。再び湯船に入る。体を伸ばし、足を持ち上げてみる。


 おお~~、足もすらりとして格好いいなあ、と自画自賛する。萌さんに褒められたせいだ。すると、頭の中に萌さんの下着姿が現れて、僕を悩ませ始めた。


 うわあ~~~~、萌さんの胸が……湯船の中に現れたらどうしよう。窓越しに見えた彼女のバストが、くびれたお腹が迫ってくる~~~。


 どうして今、この場所に現れるんだ!


 ああ~~、もう風呂からあがろう。


 これ以上湯につかっていると妄想で頭の中がいっぱいになり、のぼせる~~~。




「ふう~~~っ、いいお湯だった」


 風呂の扉を開ける。


 するとそこには、光さんが立っていた。次に入るつもりで待っていたのかな。


「お待たせして……すいません。待ったでしょう」

「えっ、今来たばかりよ。空いてたら入ろうと思ったの」

「どうぞ……」

「なんか、顔が真っ赤ねえ」

「長湯しちゃって……」

「まあ、しっかり磨いてたのねえ。それとも自分に見とれてたのかなあ?」

「違いますって!」

「どうぞっ!」


 風呂から出てキッチンで一人飲み物を飲み、漫画を読んでいた。すると、光さんが出てきてビールを取り出し、前に座った。


「ああ~~っ、あったまったわあ。いい気持ち!」

「冬のお風呂は気持ちがいいですねえ」

「疲れが取れるわあ。一日中立ち仕事でしょう、足がむくむのよお」

「仕事お疲れ様です。足をマッサージしましょうか?」


 さりげなく言ったつもりが、


「あっ、御願い~~」


 とマッサージすることになった。ひざから下の部分をマッサージしたが、確かに固くなっているようで、もみほぐすと血行が良くなってきたのか、うっとりした目を向けてきた。


「う~ん、夕希君最近めっきり男っぽくなったわよねえ」

「なんですか、急に」


 手が止まる。 


「だって、素敵になったわよお」


 マッサージのお礼か。


「お世辞を言わないでください」


 だけど、いろいろな人から、冷やかされる。大して変わってないけど……。


「いいことありそうでいいわよねえ、若いって」

「光さんこそ、あのお医者さん……えっと……花島先生! 彼とはどうなったんですか?」

「花島先生ねえ……一時期いい雰囲気になったんだけどねえ……もう別れちゃった」

「えっ、そうだったんだ……」


 光さんもいろいろあったんだなあ。


「で……最近の夕希君いいことありそう、なんか生き生きしてるもん」

「特にないですよ、いいことなんて……」


 また冷やかされるのかなあ……。


「夕希君みたいな人と付き合うと、楽しいわよねえ。それに、ドキドキする」

「どうしてですか」

「だって~、結構ハンサムだよ。見ているだけでも、うっとりするう」

「えっ、そうですか」


 最近、やたら褒められまくる。何か下心があるんじゃないかと疑ってしまうほど。


「スタイルはいいし、それに目が優しげで憂いを帯びていて、いいのよねえ。あとは、引き締まった肉体、これが一番の魅力」


 またしても体をほめられたぞ。


「そんなに褒めても、何も出ませんよっ!」

「お世辞じゃなくて、本当よ~~。今まであまり話題にならなかっただけで」


 ……で、ここでお酒を飲んで僕を口説いてるのかあ。


「あっ、別に夕希君に付き合ってとか、そういうことじゃないからね」


 ほっ……。


「でも、私がもうちょっと若かったら、放っておかないなあきっと。病院でいろいろな患者さんを見ているけど、夕希君はいざとなったら頼れるタイプ。心細いときに、いつもそばにいて励ましてくれそう。いざとなると、逃げ腰になる男ってよくいるのよね」

「ああ、そこなら自信あります。困っている人には、声を掛けますよ僕は。それに途中で逃げたりはしない」

「いいなあ、そういうの」

「だけど、相手が誰でもいいってわけじゃありません!」

「そう、そこがまたいいのよ。好き嫌いがはっきりしていて、面倒を見てもらうと、すごく自分が特別扱いされている気がするの。それがまた嬉しいのよねえ、女子は」

「ふ~ん、そうですかあ」

「それを無自覚にやっているところもいい」

「はあ……」


 今日は褒められまくりで、くすぐったい。


「そんな夕希君の決め台詞は……そうねえ、今日はずっと君と一緒だよ、かな」

「わあ、それじゃあ一晩中一緒ってことですかあ。相手は引くんじゃないかなあ」

「そっかなあ……じゃ、相手にぐっと顔を近づけて、いいよね……と囁く」

「何がいいのかわからないじゃないですかあ」

「もう……何がいいのかなあ、ずばり君のことが……好きだ! かな」

「ああ、それが一番わかりやすい」

「練習してみて、私で」

「やってみましょうか……」

 

 ということで、二人で立ち上がりシンクの前でこちらを向く光さんに接近し、顔をぐっと近づけ一言、


「君が……好きだよ……」

「うう~~~~っ、いい~~~~! しびれる~~~~う」


 と、恋愛談義の後、なんと告白の練習をしたのだった。

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