第101話 恋愛談義(萌さん)②

 別の日の夕方。一人流しに向かい夕食を準備していた。


 そこへ入ってきたのは、日南ちゃん。


「あっ、夕希君もこれから夕食……」

「そう、日南ちゃんも?」

「そうなの……偶然ね」

「そうだな」


 日南ちゃんが、袋の中から取り出したのは……チャーシューに卵に、玉ねぎなどの野菜。


 はっは~ん、今日はチャーハンだな。


「何を作ろうとしてるか、当ててみようか?」

「うん……さあ、なんでしょうか……」

「ずばり、チャーハン!」

「だと思う……」

「違うのかな?」

「当たりでした」


 ふ~ん、やっぱりな。こっちは……。


「今日のメニューは、うどんでしょう?」

「まあね」


 って、テーブルの上にうどんの袋が出てるから。


「材料はもう切ってあるから、まな板と包丁使っていいよ」

「そ、そのようね」


 といい、日南ちゃんは材料を細かく刻み始める。こちらはもう、火をつけて材料を煮込み始めた。


 あれ、あれ、ずいぶんたくさん切っているぞ。


 日南ちゃん大盛りにするつもりだな。こちらは、材料を煮込めばもう出来上がりだ。


「さあ~~、できた!」

「あっ、早いのね」

「うどんだからね」

「わたしは、これから炒める」

「お先に、いただきます!」


 材料を炒める軽やかな音がして、いい香りが漂ってきた。湯気も出ている。日南ちゃんはぎゅっとフライパンを握りしめ、フライ返しをこまめに動かしながらチャーハンを作っている。材料を入れるたびに体が左右に動く。


 なんか大変そうだな。


「手伝おうか?」


 と立ち上がり隣の材料を覗き込む。野菜を炒め終わり、これからご飯を投入するところだ。


「はい、入れてっと! 手早く炒めて!」

「あ……ああ……どうも」

「手早く炒めないと、焦げるよ」

「は……はい……こうかな」

「そう、そう。ごはんはパラパラと。次は卵を入れる」

「あ……あっ……どうも」


 どうやらアシスタントが必要だ。


「隣で見られてると……」

「ああ……やりにくい? 少し離れてた方がよかった?」

「安心する」

「あっ、そう」


 やっぱりアシスタントが必要だ。フライパンを持つ手に、力が入っている。肩もがちがちだ。


「そんなに力まなくてもいいのに」

「だって……しっかりつかまないと」

「フライパンは逃げないって」

「そうです……」

「おお~~、どんどん混ぜないと焦げ付くよ。卵がくっついちゃう。お米と絡ませて、バラバラにするんだ」


 みのりさんが教えてくれたことを、そのまま繰り返す。


「そうだったね……もうすぐできそう、あっと……調味料を入れて……と」

「まあ、見た目はまあまあだよ」

「はあ……難しいな……味はどうかな」


 小皿にとって味見してから、今度はこっちへお皿を向けた。


「うん、まずまずだな」

「ほお~~~、よかった」


 大皿に盛られたチャーハンはテーブルの中央に置かれた。僕と日南ちゃんは再び向き合って座り……さあて、うどんの続きを食べようとしたら、


「あっ、これ夕希君の分もあるの……手伝ってくれたから」

「そうなの?」


 だから大盛りだったのか。


「いただきま~す!」


 日南ちゃんの手が止まっている。


 こちらの顔を穴のあくほど見てる。そして、体に視線が動いたりする。


「美味しいよ。安心して」

「じゃ、私も」

 

 なんか、またしても変な雰囲気。


 二人分用意していたのは計画的!


 いや、いや、日南ちゃんに限ってそんなことは……やっぱり、有り得るな。


「日南ちゃん二人分作っちゃって、材料が……少なくなっちゃって悪いね」

「ああ……気にしなくてもいいから。ついでだったし……」


 ほんとについでなのか……。怪しいなあ。


 疑惑が胸に広がっていくが、素直に食べた……ふりをした。食べ終わると、日南ちゃんは、


「よかった……うまくできて」


 と言いながら、そそくさと部屋へ引き上げ……そのあとで入ってきたのは……萌さんだった。


「萌さん、これから夕食ですか?」

「まあねっ、ちょっとお、最近日南ちゃんといい雰囲気じゃない」


 あれ、だから待ってたのかなあ。もう、そんなことしないでほしいなあ。


「ああいうの、いい雰囲気っていうのかなあ。いつももじもじしてて、なんかこっちが見られてるみたいで」

「それがあ、日南ちゃんの愛情表現なのよお」

「そんなもんなんですかねえ」


 萌さんは、話し始めると夕食を作るのを忘れてしまい、目の前にで~んと座った。


「夕希君って、自分で思ってる以上に男っぽいんだよ。だって、Tシャツの上からでもわかるほど胸板はがっしりしてて、筋肉もマッチョとはいかないけど、そこそこついてる。結構すらりとして引き締まった、い~い体をしてるだ」

「そうですかあ~~、そんなこと言われたことないけどなあ~~~」

「自分では自分の魅力がわからないのよお。なかなか、女心をくすぐる体型だよ。やっぱりボディって大事なのよお」


 そりゃあ、萌さんが言うと説得力あるよ。素晴らしいボディの持ち主だものなあ。


「じゃ、日南ちゃんは僕の体目当てで接近してるってことですかっ! 信じられないなあ」

「それも、彼女の無意識の行動。自分ではわかっていない。だけど、かなりムラムラしてるよお、彼女」


 萌さんが言うといやらしいんだけど。


「まあ、磁石に引かれるように、君に吸い寄せられているんだ。そんなところから恋愛が始まるんだよ」

「そんなのが、恋なんですか」

「そうよっ! 何も大げさに構えてするもんじゃないんだから!」

「そうですか。恋愛の達人の言うことですから、よ~く心にとめておきます」

「よろしいっ!」


 と言い放ち、ようやく立ち上がり夕食を作り始めた。ボディねえ、僕は自分の体を鏡に映してみた。

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