第100話 恋愛談義(みのりさん)①
「は~あ。う~ん、はあ~~っ」
ついつい一人キッチンにいると、ため息をついてしまう。
日南ちゃんに思い切りなつかれた。甘えられもした。めちゃくちゃ頼られた。そして、まるで彼氏のようにべたべたと接してくる。
「う~~ん、はあ~~あ~~。これっていったい~~~」
と唸っていると、突然後ろから肩をたたかれた。
「そんなにため息ばかりついてえ……幸せが逃げちゃうよ~~っ」
「どっかできいたセリフ。誰かな?」
振り返ると、ぱっちりした丸い目と出会った。
「わたしよ、私、みのりっ」
「ああ、みのりさんですか」
「私じゃ不服だったのかなあ」
「いえ、そんなわけじゃありません」
「日南ちゃんじゃなくて……残念だったかな」
ニコッと笑ったが、その笑顔は意味ありげだ。
「そ、そ、そっ、そういうわけじゃありませんっ、決して!」
「まあ、そうなのお。別にいいわ、否定しなくても」
僕の前に座った。じっくりと話をする姿勢。
「ねえ、夕希君の心の中って……謎が多いわよねえ」
「そりゃ、本心を全部さらけ出して生きている人の方が少ないと思いますよ。謎めいているぐらいの方がいいんです」
「ふ~ん、夕希君って、好きな人がいるともうその人以外のことは考えられなくなるタイプ?」
「どうかな……そうかもしれない」
「自分で思っている以上に情熱的で、真っすぐ」
「う~ん、それは、買いかぶりすぎです。自分でもどうしたいのかわからなくて……悩んだりしています」
「日南ちゃんのことね」
「それは……違いますって」
「心の中には、別の人もいる……その二人が、せめぎあってる、違うっ?」
「はあ~~~、あああ~~~!」
図星だ。香月さんのことを知らないのに、まるで運命を言い当てる占い師の様に、ずばり言い当てる。
香月さんを彼女にしようとたくらむ僕の心に、常に絡みついてくるのが日南ちゃん。だけど、なんか彼女をかまってあげないといけないような気がしてるもう一人の自分がいる。
「みのりさんは、好きな人ができたら、どうしますか?」
「えっ」
困ったような表情だ。
「唐突な質問ねえ。漠然としてて、答えるのが難しいわあ」
「だけど……」
「そうねえ。とりあえず、その人のことを見ていて、自分の気持ちを温めていくわねえ」
「おお~~、いいですよねえ。その時間って、貴重です」
「そう、そう、そうやってだんだん煮詰まっていくのよ、恋心が」
「おお~~~、いいなああ」
そういえば、みのりさんが合コンでほかの女子たちが男性たちと仲良くなるのを見せつけられたんたっけ。だけど本気の恋愛話を聞いたことはなかった。
「みのりさんと付き合う人って、幸せですよね」
「そうかなあ……私って、すぐに世話を焼きたくなったり、直球で気持ちをぶつけちゃったりで、重たい女だって思われちゃうみたい」
「そうかな。そういう人って魅力的だけど」
「夕希君は、そういうタイプなんだ。気が合うわねえ」
「そっ、そうですね、僕たち……似てます」
みのりさんは遠い目をする。
「高校時代に好きだった男の子に、お弁当を作ってあげてたのよ」
「うおお~~、さすがみのりさん。ラブラブだったんですね! お弁当に乗りでハートマークを描いたりして、おお~~~いいなあ」
「ところがねえ、彼は始めのうちは喜んでたんだけど、それが続くと……周囲からは冷やかされるし、付き合い始めたばかりで、それほど私のこと知らないのに、押しつけがましいって……最後には、もういいって……」
みのりさんは目頭を押さえた。
「いやな奴だなあ。人の親切をあだで返すようなもんじゃないか。僕だったら、もう,そんな彼女に甘えまくりますよ」
「ありがとう、慰めてくれて……うまくいかないもんね、男女の仲って」
「男はそいつだけじゃありません、みのりさんの良さはきっと認められます」
「だから……恋愛って難しいの。きっと駆け引きもあるのよ、私は未熟だった」
「そうなのかなあ」
わかった! 相手をじらすことも必要なんだ!
ふう~~、ため息が出てくる。
「みのりさんの好きなタイプって……」
「それはねっ……優しい目をしていてえ、包容力があってえ、一緒にいても空気の様に自然でいられて、それから、もちろん私の料理をおいしいって言って食べてくれる人」
「最後の条件は、すべての男がクリアできます。保証します!」
「自然体でいられるって、いいよなあ。そうだ、僕もそんな人がいいのかなあ」
すると、香月さんより日南ちゃんの方がいいことになってしまうではないか~~~。香月さんといると、わくわくするが、何を考えてるんだろうって、常に緊張感で満たされている。
「気が付いたら、もうその人しか考えられなくなっていた、その人なしじゃ生きられない、なんていうのが一番いいんだよね」
「おおお~~~~、そうです、そうです」
「わあ、素敵だなあ。そんな出会いがあったら。そうそう、そういう人って、出会った瞬間にわかるかもねっ! ピンとくるっていうか、はっとするっていうか、本当に心を矢で打ち抜かれるっていうか……」
「わああ~~~、そうです。いいなああ、そういうの」
なんてことをしゃべりながら、二人の恋愛談義は盛り上がっていった。
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