第99話 三角デート④
「連れてきてくれて、よかったな……」
「別に……僕が連れてきたわけじゃ……」
ないけど、だって行きたがったのは日南ちゃんの方だし、一緒に行けなかったら泣き出しそうな雰囲気だったし……。
あれっ、腕に自分の腕を絡ませてる。どういうことだっ。もぞもぞと腕を動かすと、日南ちゃんがいった。
「あっ、ダメだったかな?」
「そんなに掴まなくても、もう迷子にならないと思うよ」
「そう……だね」
残念そうに手を放すが、人混みに押されて体がぴったりくっついている。まるで満員電車に乗ってるような……。
日南ちゃんの体半分がぴったりと僕の脇腹に密着し、小さな胸が押し付けられる。だが、服の上からだと小さいと思われた胸もぐっと押されると、弾力があり結構圧迫感がある。
こんなにくっついて、日南ちゃん意識してないのかな。ちらりと横顔を見ると、視線は前方に注がれていて、気づく気配はない。
一方右隣の香月さんの方は、肩はほぼ接近した状態だが、ちゃんと距離を取っている。だが、人に押されると、時折肩がくっつく。胸が接触したりはしない。
なんという違い。しかもお互いの様子はわからない。
「香月さん、人が多いいよね」
「そうね。みんなこれを見に来てるんだもの……綺麗ねえ……」
とため息をつきながら、スマホで写真を撮る。すると、日南ちゃんが持っていたスマホを片手に、僕の腕をぎゅうっ、とつかみながら言った。
「せっかく来たんだから、私たちが映っている写真も欲しいな」
「そうだね。日南ちゃんこっち向きになって。撮ってあげるから」
「そうだ……一緒に写って」
「えっ、三人一緒じゃ無理じゃ」
「それじゃ、香月さんに頼んで……」
と香月さんを呼ぶ。
香月さんは何のことかと不思議がったが、日南ちゃんのスマホを握って僕と日南ちゃんのツーショットの写真を撮った。
あれ、どうしてこういうことになるんだ。
「じゃ、僕と香月さんの写真も撮ってもらおうかな、日南ちゃんに」
「それじゃ、今度は私が……」
と僕と香月さんのスマホで写真を撮る。すると、後ろにいた人が、
「三人一緒に撮りましょうか?」
と僕が真ん中で両サイドに二人が並んだ配置で撮ってくれた。全く、へんてこなデートだ。香月さん嫉妬してくれてるのかな。結構ポーカーフェイスだし、余裕がありそうに見えて本心がわからない。意外にもジェラシーを感じてるのかもしれないぞ。
そして最後に、打ち上げ花火があがり、大歓声とともにプロジェクションマッピングが終了した。心の中がじんわりと温かくなる。大勢で明るいものを見つめていると、知らない人同士でも連帯感が生まれるんだ。
「わあ~~、来てよかったわあ!」
香月さんが興奮の声をあげる。
「そうだね、遠かった夜までだいぶ待ったけど、来たかいがあった」
日南ちゃんの感想は……。
言葉が出ないのか。
目頭を押さえている姿は、毛づくろいをしている猫のよう。こんな姿もどことなくひょうきんだ。
「日南ちゃん……感激したようだね」
「そう……人生最高の日……」
ほう、すごい表現。
ライトアップされた木々がキラキラ輝いている。僕たちは、木々の下を興奮で、時折スキップしながら歩いた。
三人でラーメンを食べ帰宅することにした。お互いの顔が湯気の向こうで赤くなっている。
帰りの電車の中では、一日の疲れが出てせいか、電車の揺れが心地よかったせいか、いつの間にか眠り込んでいた。三人とも充実した気持ちだった。すやすやと眠ってしまい、気が付いたら駅へ着いていた。
「じゃっ、日南ちゃん夕希君また学校でね」
「うん、香月さん誘ってくれてありがとう。またいいところを見つけたら、一緒に行こう」
「任せといて!」
ぼくと日南ちゃんはシェアハウスへ向かって夜の道を歩く。腕につかまってきたりはしなかったが、何となく妙な気分だった。
「あの……さっきは……どうも」
「何のこと……」
って、腕につかまってたことか。
どうもこうも、彼女僕のことを彼氏と勘違いしてたんじゃないのか。
「つい、手が出てしまって」
「ああ、仕方ないよ。混んでるし、押されたら、倒れそうになるからね。僕はレディーに優しいんだ」
あっ、またしても余計なことを言ってしまった。日南ちゃんにレディーだなんて。
「はっ、レディーって、うふっ。私のこと……もう」
言葉が過ぎた。照れて両手で顔を覆っている。
「やっぱ、夕希君は頼りになるっていうか……優しいっていうか……私のナイトっていうか……」
「もうっ、いいよ。そんなに褒めなくて」
日南ちゃんって、ほんとっ……面白いや。
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