第98話 三角デート③
食事は美味しかったが、二人の女の子にがじっと見つめられ、どうやって食べたのかわからないくらいだった。
「おいしかった……ね」
「御馳走様でしたっ!」
二人の方が余裕の態度だ。満面の笑みをこちらへ向けている。
「うん…そうだね……うまかった」
どぎまぎして答えた。
時間がたっぷりあったので、グラスに残った飲み物をゆっくり飲み街へ出る。
スマホ片手にあちこち歩きまわっているうちに、だいぶ日が暮れてきた。公園で休憩することにして、さらに歩く。冬の日だったが、夕日がベンチにぬくもりを与えてくれて、座っていても寒くはなかった。
僕が真ん中で、右側に香月さん左側に日南ちゃん。両手に……華かな。だいぶ違う華だけど。二人に訊く。
「寒くない?」
「私は、この通り……」
カイロを取り出して見せた。
「カイロを持ってきたから、あったかい」
「日南ちゃんは?」
「私は……ダウンジャケットを着てるから……大丈夫」
「そっか……」
辺りを見回すと、だいぶ暗くなっていた。
「そろそろ時間かな」
香月さんが時計を見る。ライトアップは六時からとあった。
「もう少しだから、そろそろ行ってみようか?」
「そうだね、近くで見たほうがいいよね」
「わあ……ドキドキする……」
日南ちゃんがスマホを取り出す。写真が撮れるかどうか確認してるのかな。昼間より、人が多くなってきた。すれ違う人にぶつかりそうになるたびに、神経を使う。
「日南ちゃんぶつからないようにね!」
「うん……危ない……スマホ見ながら歩いてる人もいるし」
「離れるなよ」
「うわっ、ぶつかるっ!」
「ほら、言わないこっちゃない」
僕は日南ちゃんの腕を引っ張る。日南ちゃんは僕の後ろにぴったりくっついた。
影武者のような日南ちゃん。身をかがめて、周囲をきょろきょろと眺める。
「うわあ~~~! 人が多くなってきたあ~~」
「騒がないでっ!」
「日南ちゃん、大丈夫よ。いざとなったらスマホで連絡取り合えばいいんだから」
香月さんが励ますが、そんなのは励ましにならない。
人ごみを抜けた先に駅舎が見えた。ちょうど時間になり、ライトアップされた!
「うわあ~~~っ、綺麗い~~~~」
香月さんが感嘆の声を上げる。
「さっき見たのと全然違うねえ」っと、僕。
「素敵……です。まるで……夢の中のお城みたい」
「そう……お城かあ」
三人横に並びため息をついた。空はほんのり薄明かりが残っていたが、闇の中でひときわ輝いた。初めは同じ色で照らされていたが、時間の経過とともに様々な色に塗られていく。カラフルな絵の具を上からこぼしたように、さっと色が変わる。そのたびに建物の表情が変わる。
ブルーを基調としたダークな落ち着いた色調に変わったかと思えば、赤やオレンジなどの暖色の組み合わせに変わる。
まるで建物が生きているみたいだ。
「わっ、また色が変わったっ!」
左隣で日南ちゃんが声を上げる。いつもよりずっと大きい声、こんな声も出るんだな。そして、子犬が吠えてるみたいな高い声。
「素敵ねえ。ロマンチック~~~」
右隣では香月さんが、感激の声を出す。彼女の声がロマンチックだ。
あれ、左隣の日南ちゃんが僕の上着の袖をつかんでいる。どういうことだ。彼氏だと勘違いしてるのか。
「あの……日南ちゃん、これ?」
「あっ、迷子になるといけないからね……しょうがないの」
立ち止まってるんだから、迷子になりようがないのに、何がしょうがないんだ!
右隣の香月さんには見えない。混雑しているので、三人はぴったりくっついている。時折後ろから押されたりするので、体を踏ん張って立つ。
「倒れないようにしなきゃ……」
日南ちゃんが、さらにしっかりと僕の腕につかまる。どうぞご自由に。時間の経過とともにさらに人が多くなり、人混みの中で眺めているような格好になった。
「つぶされないようにしなきゃ……」
「大丈夫っ!」
「私小さいから……」
「そうだね……気を付けて」
日南ちゃんは、いつの間にか僕にぴったりくっつき、腕にしがみついていた。
「混んでるから、ごめん……」
「まあ、仕方ない……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます