第96話 三角デート①

 ぼくへの警戒心をどんどん外した日南ちゃんは、日ごと可笑しな女の子になっていく。隠していた本性が出てくると、以前よりも意味不明な発言や言動が多くなった。


「夕希君、私の食パンどこに隠したの?」だの、「私に頼られすぎて、困ってない?」だの、

はたまた「私の顔すぐ赤くなるって思ってるよね」だの、まあだいぶ本心に近い場合もあるのだが、全く根拠のないこともある。


「食パンを隠したりしてないよ」


 と答えると、「じゃ、食べちゃったの?」と疑ってかかってくる。


 そのうち、自分が全部食べたことに気が付くんだから、何とも困った子だ。


 

 そんな生活が続いていたある日、香月さんと二度目のデートのチャンスが巡ってきた。大学でいつも会っているんだから、あえて外でデートしなくてもいいんじゃないか、と思われるかもしれないが、今回は特別だ。


「……ってことで、こんなに綺麗なイルミネーションがあるの。見たいなあ~~!」

「へえ、プロジェクションマッピングに、イルミネーションに、すごいなあ。しかも都会だし。行きたいな!」

「でもね……ここからだと、二時間ぐらいかかるし、女子だけで夜行くのもねえ」

「危ないよ、見知らぬ場所へ行くのは。わかる、わかる。一緒に行こう!」

「あら、いいの?」

「もちろんっ! ダメなわけがない」


 これって、初めからデートの誘いだったんじゃ……。


 心にも明かりが灯いていく。


「あのさ、もしかして、この話上村君にもした?」

「……まあ」

「……そっかやっぱり。それじゃ、彼もいっしょなんだね」


 彼にも都合を聞いたのか。ぬか喜びだった。


「それがね、その期間中は実家に帰るからいけないらしいの。このイルミネーション、期間限定だから」

「そうなんだ。それは……残念だね……」

「せっかくだから、フットパス愛好会のメンバーで行きたかったから話をしたんだけど」

「まあ、彼にも都合があるから仕方ない。二人でいいよ」


 と言いながら、顔が笑っていた。二人の方がいいや。


 その約束をしてから、彼女と会うたびに自然と笑みが出た。二人きりの秘密を抱えているような、心がくすぐったいような、いい気分……。


 ところが……。


「香月さん、夕希君と二人きりでイルミネーションを見に行くって本当?」

「そうよ」

「ええっ……二人きりで……そうなの」

「日南ちゃん……どうしたの?」

「……えと……それが……」

「何かしら?」

「だから……えと……」

「……日南ちゃん……」

「それが…そのう……」

「一緒に行きたいのね?」

「えっ、そっ、そっ、そんなあ!」

「そうなんでしょ、一緒に行く?」

「あっ、いっ、いっ、いっ、いいのかなあああ~~私までえええ~~~」

「まあ、いいわっ。一緒に行こう」


 ということで、なんとどこからかその話を聞きつけた日南ちゃんが香月さんに交渉し、ついてくることになったのだ。香月さん、心が広いなあ。それにしても日南ちゃん……どういうつもりなんだ。


 

 何とも奇妙なデートになり、当日を迎えた。その日は、朝から出かけ、向こうで昼食をとったり街歩きをすることにしたのだ。三人そろっていては、香月さんとイチャイチャすることなどできそうもない。


「日南ちゃん、支度はできたの」


 と声をかける。


「で、で、で、できましたっ! 隊長っ!」

「隊長じゃないから!」

「お荷物にならないようにする……わたし」


 すでにお荷物のような気がする……。


 電車に乗って、遠出するのは楽しい。車窓から見える景色にいちいち反応する日南ちゃんの声をバックに、気分は盛り上がっていった。


 駅を降りると、三人一斉に同じことを言った。


「す、すごいなあ!」

「人が多いいよね」

「迷子にならないようにしなきゃ」


 日南ちゃんがぽつりと言う。


「私たち……場違いじゃない……」


 香月さんがフォローする。


「そんなことないって、楽しもうよっ! 迷子になったら、スマホで連絡取り合えば大丈夫よ!」


 僕と香月さんはスマホを見ながら、歩き出した。日南ちゃんは、後ろからちょこまかと足を動かし、顔を左右に動かし景色を眺めながら必死についてくる。


 くるくると街を歩き回り、イタリア料理のレストランを見つけ中へ入った。ちょっと奮発しようと、お金は多少持ってきていた。

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