第95話 年上パワー全開⑤


「あああ……木暮君。今までの話は……」

「すべて聞かせていただきました」


 視線をあちこちにさまよわせ、顔を合わせようともしない松永さんを、正面から見据える。僕の顔は真っ赤だ。


「なっ、なっ、なんで、木暮君がっ! どういうことなんだ!」

「そうよっ、私が仕組んだの。ここまで来てくれてよかったわ。そして正直に話してくれて!」

「あああ~~~」

「じゃさっき言った通りにしてよっ」

「わかりましたよっ、もう逃げも隠れもしませんよ。はい、これは木暮君の三万円」

「ハア……戻ってきてよかった」

「それから……」


 萌さんの顔が怒りに燃えている。松永さんの顔を睨む。


「木暮君ごめん。だから、これはここだけの話にして」

「ちょ~~~っと、松永さん、それはないでしょう。も~ちろん店長には言わなきゃね。恥ずかしくて言えないんだったら、私から言ってあげるけど……どうする?」

「いいえっ、それはやめてください! 自分で言いますから!」


 ときっぱり言い放った。


「よろしいっ!」


 僕はお金が返ってきたことと、自分が不正をしていないことが証明されほっとして胸をなでおろした。だが、まだ胸の中には怒りの炎は燃え盛っている。謝られても、そうそう簡単には収まるものではない。


「今後は、人を陥れるようなことはしないって約束してよ! そうしないとっ、また私が黙ってないからっ」

「わかってますって、こんな美人に叱られたんだ。二度とやりません」


 あ~あ、いつまで約束を守るかな。今後もバイトは続けたいから、問題が起きないことを願うばかりだ。


「さて、っと。もうこんな時間だわ。あなたが二時間も残業するもんだから、夕食を食べそこなっちゃったわ。ここで、夕食にしましょう、ねえ、楓さん、夕希君!」

「ああ、いいですねえ。そうしましょう!」

「それじゃ、僕はもう帰ります。いいですよね」

「行ってよ~し!」


 楓さんが、服装にそぐわない気合の入った声を出した。


「こちらは、本物の警備員。柔道黒帯なのよ。同じシェアハウスの住人だから、覚えといて!」

「これはまた、猛者ぞろいで……」

「猛者とは何よッ! こんな美女を捕まえて!」

「あああっ、すいません」


 楓さんにも責められて、たじたじの松永さん。この人たちが同居人だと知っていたら、僕を陥れるなんてことは考えなかったのかもしれないなあ。


「さあ、夕希君の冤罪が晴れたお祝いよ!」

「あら、松永さん帰らなくてもいいじゃない。一緒に食べていったらどう?」

「ほっ、本当にいいです。じゃ、さよなら! 木暮君、ごめん!」


 といいって、「柿の木」を後にした。


 僕はスマホに指を触れた。


 恐る恐る電話に出た日南ちゃんの声は震えている。


「日南ちゃん、松永さん自白したよ」

「えっ、それじゃあ、無実が証明されたの?」

「そう、うまくいった。萌さんのおかげでね」

「流石ね、勇気あるし機転も聞くし……すごいなあ。憧れちゃう」

「あっ、日南ちゃん、待っててくれたんだね。夕食は?」

「食べてないの……心配で……みんな帰ってこないし……」

「そっか、じゃ、柿の木へおいでよ。今すぐにねっ!」

「うん……よかった……ぐすん。よかった……ぐすん」


 あれ、あれ、本当に泣いてる。無事にここまでこられるかな。まあ、大学生なんだ大丈夫だろう。


 しばらくして現れた日南ちゃんの顔は真っ赤で、目は頬に負けず劣らず赤くなっていた。


「外は寒かったら、真っ赤になっちゃったかも……」

「そっか、ありがとう」


 日南ちゃんもそろって、僕のお祝いが始まった。

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