第91話 年上パワー全開①

「は~い、これも食べて! お肉、美味しいわよお!」

「おお、ありがとうございます、萌さん!」

「ねえ、ねえ、野菜も食べたほうがいいわね、はいっ、これ」

「すいません、みのりさんまで。ハフハフ、熱いや」


 二人の年上女性たちに、勧められ、指示されるがままに口に運ぶ。


「旨いですっ、でもそんなに僕ばかり食べてちゃ悪いです。二人とも食べてください!」

「あら、食べてるわよお。大丈夫。ねえ、ねえ、日南ちゃんは食べてる?」

「食べてます。安心してください」

「そう、最近夕希君とと~~っても仲がいいけどっ、もしかして付き合ってるっ?」

「げほ、げほっ、付き合ってませんからっ!」

「ほ~~んとお~~?」

「ほんとですってば」

 

 慌てて答え、日南ちゃんがむせている。


「そうなの、別に詮索してるわけじゃないけどさ」


 萌さん、完全に詮索してます……。日南ちゃんとはそんな仲じゃないから……。


「付き合ってはいませんが、最近とても仲が良くなりました……」

「へえ、日南ちゃんそういうの付き合ってるっていうんじゃない?」

「違いますってば……」

「そう、そう、違いますっ!」


 僕も一緒に否定する。ますます怪しい、というみのりさんの視線。


「まあ、いいじゃない萌さん。若者同士、仲良くするのは」

「そうねえ。ここでカップルが誕生したっていいものね」

「そうよお」


 あ~あ、まるでからかわれている。話題をそらさなければ。


「あの、そういうお二人は、誰かいい人がいるんですか?」

「私は、今のところ仕事一筋、っていうか、私のお眼鏡に会う人がいないわねえ」

「そっか、望みが高いからねえ、萌さんは。だけど、萌さんほど魅力のある女性に彼氏がいないのも、信じられないわよ。言い寄ってくる男はたくさんいるでしょう」

「そうでもないんだってば。そういうみのりさんこそどうなの? 油断させといて、ものすごい素敵な彼氏がいたりして」


 今度は二人が探り合いを始めちゃった。再び、みのりさんが日南ちゃんに話題を振る。


「日南ちゃんに彼氏がいたら、どうなるのかしらね?」


「私ですか……もし、彼氏がいたら……」

「いたらどうなの?」

「毎日、彼氏の前で緊張して……会話ができなくなってしまいます……」

「ほう、それからどうなるの?」


 萌さんの目が輝く。


「それから……どこを見たらわからなくなって、目が回って、挙動不審になるかも……ああ、そうなったらどうしよう……」


 挙動不審なのはいつものことでしょう。


「まあ、可愛いわね。そうなった日南ちゃんを見てみたいわねえ、夕希く~ん」

「あっ、ああ。そうですねえ……げほっ」


 ッとむせ返る。


 美味しいはずのすき焼きの味がわからなくなってくる。


 萌さんがお腹をさすりながら、お茶を飲む。


「ああ、美味しいかったわ、みのりさん。ご馳走様でした~~!」

「みのりさんの料理久しぶりに頂いて、感激です!」


 と、僕。日南ちゃんもお礼を言う。


「実家以外でこんなにおいしいご馳走が食べられるなんて、幸せです……生きててよかった……」


 重すぎでしょう。しかも、涙ぐんでるし。


 片づけをして日南ちゃんみのりさんの順に部屋へ引き上げた。キッチンに残っているのは萌さんと僕だけ。またからかわれるかな。


「ねえ、夕希君、彼女いないんでしょ?」

「……いません……」


 残念ながら、彼女と呼べる人は。


「そう、じゃ、私と付き合わない?」

「えっ、萌さんと」


 急に何を言い出すかと思えば。


「最近私には年下が合うのかな、って思い始めてたの」

「そうかもしれませんが……僕ですか……」

「まあ、毎日会ってるし、ここでいつでも会えるけどね」


 早く答えなきゃ、イェスなのかノーなのか、答えは二つに一つだ。萌さんの瞳が熱を帯びてくる。


「……はい」


 僕はとっさに返事をした。えっ、イェスって答えたってことだ。

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