第85話 秋深まる①
スポーツ大会が終わり、以外な人の意外な一面がわかったりして、学校生活もシェアハウスでの生活も変化の兆しが見えた。
日南ちゃんは向井君の助言で、僕が待っていたことを知り僕に対して一目置くようになり、彼も何かと声をかけてくれるようになった。
「日南ちゃん、元気にやってる?」
「ま、まあ、まあ……です」
「まあ、まあ、か。君のまあまあ、は大体うまくいっていると取っておくよ。マラソンでついた自信を、ほかのところでも発揮するといいよ。馬鹿にしていた男子連中も、もう君をからかわなくなっただろ」
「うん。向井君の、おかげで、なんかパワーが沸いてきた」
「まあ、僕は当日ほんの少しアドバイスしただけだけどね。それで、今までより顔を上げて歩くようになったんだな」
「えっ、そうかな?」
「もう、自分では何も気づいてないんだな。いい傾向だよ」
「向井君のおかげです」
「そんなことないって。ずっと練習に付き合ってくれたのは夕希だろ。彼の力が大きいよ」
「それは……そうだね。でも、私夕希君に何も感謝の気持ちをお返ししてないの。何をしたらいいかわからないし、取り柄がないから」
「ま~たそんなこと言って。彼はお返しを期待したわけじゃないから、気にしなくていいし、日南ちゃんはそのま~んま、のびのびしてた方がいい」
日南ちゃん最近向井君と話をしているぞ。
ひそひそ何を話をしているんだろう? ひょっとして僕の噂話かな。
気になってそばへ近寄った。
「お~い、二人とも、最近仲がいいじゃないか。僕のうわさでもしてたんじゃないだろうな、日南ちゃん?」
「ち、違うよっ!」
「やっぱりそうか、嘘はつけないな」
日南ちゃんの目がくるくる回っている。やっぱりそうか。向井君がいった。
「いいこと……ねっ、日南ちゃん!」
「あっ、そう、いいこと」
今度は天井に目がいった。
「あっ、そうそう、日南ちゃん今日忙しい?」
「別に……忙しくない」
「じゃ、真っすぐ帰ってね!」
「えっ、真っすぐてどういうこと? 曲がらないと、うちには帰れないよ」
「道のことじゃなくて、もう、日南ちゃんは。図書館によったり、友達とお茶したりして、時間をつぶさないで帰ってってこと」
「あ、そういうこと」
やっぱりこの子、変わってる。
「どうして? 何かあるのかな?」
「まあ、うちへ帰ってからのお楽しみっ!」
それを見て向井君は、にやりと笑った。
「仲がいいのは君らじゃないのか?」
「そうじゃないよ……」
僕はゴホン、と咳払いする。日南ちゃんも手をパタパタと左右に振り否定している。
「君ら高校の同級生なんだっけ?」
「そうなんだ。でも、高校の時はあまり話したことがなかった」
元カノの親友だということは知っていたが、陰に隠れていて存在感がなかった。振られてからは近寄りがたかった。というか、避けていた。
「向井君って、出身はどこ?」
「僕は地元なんだ。だから自転車通学」
「おっ、そうなんだ。羨ましい。自宅生活かあ、懐かしいな」
「まあ、楽ではあるよね」
「この辺のこと教えてくれよ! 僕はいまだに駅とシェアハウスと大学の三角形の中だけで生活してるよ。外の世界は全くわからない」
「何でも聞いてくれよ、この町のことや周辺の地理なんかも大体把握してるから」
「おお、よろしくお願いしますっ!」
「じゃあ、また明日な!」
「おお」
「日南ちゃんも、じゃあね!」
「は、はい。また明日、です」
日南ちゃんは笑顔で手を振る。
シェアハウスへ急いで帰ったのは、亜里沙ちゃんから朝誘いを受けていたからだ。といっても、デートの誘いではない。今日は帰ってからサツマイモの収穫をするから、焼き芋パーティーをするといわれていたのだ。帰りがけに日南ちゃんにも声をかけてと言われた。メールも送るといっていたので、日南ちゃんまだ見てなかったんだ。日南ちゃんらしい。
「亜里沙ちゃん、おっもう収穫したんだね。早いな!」
「おばあちゃんが採っててくれた」
「火もぱちぱち鳴って、まさに焼き芋日和」
「は~い、そろそろお芋を乗せましょうね!」
亜里沙ちゃんのおばあちゃんであり、このシェアハウスのオーナーでもある吉田真砂さんの合図で、アルミホイルに包まれたサツマイモが火の中へ投入された。
「さあ、日南ちゃんもいらっしゃ~い!」
いつの間にか現れた日南ちゃんが、火を見つめてぼーっと立っている。
「楽しみ、ってこのこと?」
「そうよ、大勢いた方が楽しいでしょ。亜里沙の同級生なんだから、遠慮しないで」
さらに一歩こちらへ進んだ。
「じゃ、じゃ、じゃ~~ん。夏のトウモロコシパーティーに続く第二弾、サツマイモパーティーよ!」
「わあ、サツマイモ、大好き」
「よかったわ」
吉田さんも、軍手をはめた手を振った。
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