第75話 秋は人恋しくなる季節②

 シェアハウスへ帰ると、日南ちゃんがぽつりとキッチンで座っている。長袖のトレーナーにジャージのパンツ姿。こういう服装でいると、学生寮の雰囲気そのものだ。スマホをいじっていたが、一瞬顔を上げた。


「日南ちゃん、何をしてるの?」

「ちょっと、色々」


 ゲームをやっているか、何かをチェックしているのか、どちらかだろう。そばへ寄ると、くるくると画面が動いていた。ゲームだ! 集中している最中だから、あまり声をかけない方がいいか。


 買ってきた食材を冷蔵庫に入れてから、もう一度彼女の様子を見る。指先がせわしなく動いている。部屋へ戻ってから食事をしに降りてくることにしよう。


 と思った矢先、彼女の手が止まりこちらを見た。


「夕希君、ゲーム好き?」

「まあ、好き。それほどのマニアってわけじゃないけど、時々部屋でやってるよ」

「私も好き。一緒にやらない?」

「へっ」


 一瞬何を言われているのかわからなかった。彼女僕を誘っているのか。こんな提案をされたのは始めてだ。っていうか、何か一緒にやろうって言われたの、初めじゃないだろうか。


「いやならいいんだけど……」

「やってみよう!」


 一緒にやるっていうことは、バトル系のゲームかな。日南ちゃんの好きそうなのはどちらかというとほのぼの系かな。中性的な雰囲気の日南ちゃんに部屋に誘われても、あまり抵抗感がない。


「お邪魔します」

「え……と……どうぞ」 


 初めて入った日南ちゃんの部屋には、少女趣味な品々が所狭しと置かれていた。小さなマスコットが本棚の隅に置かれていたり、キャラクターものの文房具類が我が物顔に机の上を占拠していたりしている。ベッドの上にもこれまたもふもふしたぬいぐるみが置かれていたり、枕カバーにはアニメのキャラクターがプリントされていたり、これでもか! という品揃えだ。


 小さなマスコットを指さして日南ちゃんが言った。


「この辺の人形達はクレーンゲームで取ったの」


 駅前に唯一あるゲームセンターで取ったのかな。戦利品を得意げに自慢する。彼女、いくらお金を使ったんだろうか。


「へえ、こんなにたくさん、よく取れたね。上手なんだね」


 ここでもほめることは忘れないようにしよう。


「ラッキーだったのね。これ可愛いでしょう」


 マスコットの人形を一つ取り頬ずりする。僕もその頭を一緒に撫でた。


「確かに、可愛い!」

「ねっ、ねっ」

「それじゃあ、始めよう」


 テレビの前に並んで座る。二人でコントローラーを握りしめ、敵が来るたびにやっつけたりポイントを取ったりする。


「おお、おお、やった~~!」

「こっち、こっち、え~~いっ!」

「わっ、取った~~~」

「あああ~~、しまったっ」

「それ、それ、それ、それよ~~~っ、夕希君」

「よっしゃ~~~っ、よしっと」


 連打で指がしびれてくるが、キャラクターの動きに反応する。


「やっほ~~っ」

「うわ~~~いっ」


 敵を倒すと歓声が上がる。いつの間にかものすごい盛り上がっている。


「打って~~~~っ」

「えいっ、えいっ、えい~~~っ!」


 かわいいキャラクターの女の子も登場する。キラキラと画面を飛び回る。こういうキャラクターが好きなんだろうな。


「可愛いなあ、あのキャラ」

「そうでしょう。私大好きなのよ」

  

 いつの間にか時間が経過していた。


「何度見ても飽きない、あのキャラクター。私大好き!

「目がキラキラ、髪の毛サラサラ、ミニスカートのキャラって日南ちゃんそっくり」

「えへっ、えへっ、うそでしょう。あんなにかわいくないよお」

「似てるよ。日南ちゃんの方が髪の毛は短いけど、飛び回るところが似てる」

「わあ、わあ、わあ、わあ、そんなあ~~~!」


 大喜びして手が動きまくる。

 

 照れて顔を赤らめる日南ちゃん。それから、立ち上がって手をバタバタと降り、くるりと一回転する。元の日南ちゃんに戻った……。


 日南ちゃんは片手をあげて突然敬礼する。


「どうも、ありがとっ、夕希君」

「こちらこそ、またゲームやろうね」

「わあ~~~い」


 小学生のようだが、顔はまだ赤い。ゲームの興奮が冷めやらない。


「涼しくて、ゲームをするにも勉強するにもいい季節になったよね、日南ちゃん」

「そうなの、だから夕希君を誘ったの」


 よくわからない理由だがまあいいや。日南ちゃんまでもが人恋しくて、一緒にゲームをする相手が欲しくなったようだ。

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