第72話 高校時代の友人タツヒコが来る④

「ねえ、タツヒコ君。ここはどう?」

「いいところです。自然が豊かで、人も暖かいし。紅茶おいしかったなあ」

「紅茶ぐらい、いいのよ、うふふ……」


 萌さんの今日のパジャマは、薄いパープルで、光沢のある生地だ。体のラインがよくわかる。仕事についての話はしないつもりなのかな。


「素敵なパジャマですね。萌さんの魅力を引き出している」

「これ私がデザインしたの」

「へえ、プロのデザイナーなんですね」

「まあそんなところね」


 タツヒコには女性の心を開かせる才能がある。


 彼女と向かい合って座っているので、パジャマの合わせ目から胸の膨らみが見えて官能的だ。彼の視線も時折そこへ向かう。だが、さりげなく見ているので、いやらしさがない。


「タツヒコ君は、彼女いるの? あっ、あら、答えたくなければいいけど……」

「今は……いません」

「そうなの~~!」

「大学に入ってからは、素敵な人がいなくて」

「まあ、それは残念……」


 全然、残念がっていない。萌さんは彼氏がいるんだろうか。


「萌さんは、彼氏はいるんですか?」

「あら、夕希君。どうだと思う?」

「ひょっとして、職場の同僚とかじゃないですか?」

「まあご想像に任せる、と言いたいところだけど、目下のところ募集中で~す」

「そうだったんですかあ」


 萌さんに声をかける男性は、少なからずいるだろうと思っていたので、意外だった。


「僕も、今のところ彼女と呼べる人はいません」

「ん、それに近い人はいるような言い方……」


 萌さん僕を見てにっこりする。香月さんのことが脳裏に浮かんだ。


「じゃ、三人ともまだ募集中ってことね」

「そのようです」


 タツヒコは嬉しそうに萌さんの方を見てウィンクする。彼には同居人のことは今まで一切話したことがなかったので、僕が初めてここへ来た時のようだ。落ち着き払っているところは、僕とは違う。女性に接するのに慣れている余裕とでもいうべきだろう。


「部屋が整頓されているんですね。僕なんか、いきなり部屋へ入られたら、雑然と物が転がっていて、とても人に見せられるもんじゃないなあ」

「男の子の部屋って、そんなものじゃない。私は、物は整理する習慣があるので、必ず分類して収納するの。習慣かしら……会社にいるときの」

「へえ、デザイナーってあこがれです。おしゃれで、華やかで、流行の最先端を行っていて」

「そ~~んな、たいそうなデザイナーじゃないのよ」

「もう、謙遜しちゃってえ~~。やだな~~」


 下着のデザイナーだとは言わなかった。


 タツヒコは立ち上がり、窓際へ歩いていく。


「窓からの景色を見てもいいでしょう?」

「ええ、いいわよ」


 と歩いていくと、萌さんの机もそこにあった。机の上を凝視している。ひょっとして、デザイン画が置いてあるんじゃっ!


「わあ、こういうデザインをしてるんですかあ。すごいなあ!」

「あああ~~~っ、それはっ、見ないでっ!」


 やっぱりなあ……。


「素敵ですよ~~!」

「やだ、やだ、恥ずかしい~~~! 男の子に見せられないわ~~~っ!」


 萌さんはあわてて立ち上がり、机の上の絵を裏返した。タツヒコは萌さんの胸に熱い視線を向けていう。


「こんな素敵なものを着ているんですね」

「まあ、自分のデザインしたものだからね~~」


 萌さんの声は上ずっていく。


「ちょっとだけでいいから、見てみたいなあ」

「ええ~~~っ、初対面の人に~~~! 無理よ~~~!」

「そうですよね、ごめんなさい。忘れてください」

「萌さんのデザイン本当に素晴らしいんだ。デザイン画だけでわかるだろう」


 僕は、困っている萌さんを助けようとタツヒコにいった。


「あら、新作なのよ今日のは、夕希君」


 と今度は僕に説明してくれた。


「へえ、僕にもデザイン画を見せてくださいっ。それならいいでしょう」

「ええ、いいわよ」


 僕も立ち上がり机の前で彼女から裏返しのデザイン画を受け取った。表を開けてみて……顔がほてってきた。


 真ん中にリボンがついていて、両サイドにはフリルがある。まるでコスプレの衣装のようだ。


 セクシーというよりは、可愛らしい。


 可愛すぎる……。


「可愛いです……色も、デザインも。すべてが!」


 やっぱり見てみたいな。


「まったく、夕希君までもそんなこといってえ。それじゃ、ちょっとだけ披露するわ」


 萌さんは後ろ向きでパジャマの上着を脱ぎそのままこちらを向いた。


 わっ、彼女のグラマーな体に可愛い下着がなんともアンバランスだ!


 小さいブラジャーからは豊満な胸がはち切れそうなほどに主張している。何を着ても似合う! 


 淡いピンク色の三角形が、萌さんの胸を締め付け、中心につけられたリボンが胸の形に添って目いっぱい広がっている。


「素晴らしい……感激です!」


 タツヒコがうっとりして立ち尽くしている。久々に見た彼女の下着姿。


「かわいいデザインです。コスプレ好きの女の子の目に留まりますよ、絶対」

「ちょっとマニアックすぎて一般的じゃないって言われちゃったけどね。まあ、いろいろ冒険してみるのもありかな……」

「さすが萌さんです!」


 僕はこういう萌さんのポジティブなところが大好きだ。

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