第70話 高校時代の友人タツヒコが来る②

 昼食時間になり、日南ちゃんも降りてきた。タツヒコが手を振っている。


「日南ちゃん、タツヒコです。久しぶりだね」

「そうね、タツヒコ君とは卒業以来……」

「そう、元気そうだね。卒業遠足で行ったディズニーランド、楽しかったな!」

「うん、私初めて行ったんだけど、あんな夢のような場所があるなんて、知らなかった」

「夢と魔法の国だからね。又いつか行きたいな。ここの生活には慣れた?」

「大体ね、もう来てからだいぶ経ったもの……」

「夕希と一緒に暮らしてるんだね……」


 言い方が意味深だなあ。


「そうだけど……」

「一緒に暮らしてるって言っても、学生寮みたいなものだからね、日南ちゃん。学生生活の延長みたいだよね」


 いろいろありすぎて、伝えきれないのでこう答えておいた。日南ちゃんも同じだろう。


「そう、寮みたいよ……」


 みのりさんが、そんな僕たちの会話を聞きテーブルに着くよう促す。


「さあさあ、募る話もあると思うけど、座って! まず、食事にしましょうよっ! 廊下に余った椅子があったから持ってきたのよ~~」

「あっ、そういえば隅の方にあったっけ。いつもぴったりだから、一人でも増えたら座るところがなかった」


 日南ちゃんが隅に座り、その隣が僕で、真ん中の席にタツヒコが座った。今日のスペシャルゲストってところか。その風格は十分ある。女性に囲まれて堂々としていられるのがタツヒコの特技だ。


「皆さんの貴重なお時間を割いてしまって、恐縮です」


 と、日ごろ彼の口からは出てこない言葉が出てきた。


「まあ、時々こういう集まりもあるんだ。それが楽しみの一つ」


 僕が答える。


「夕希君はいいなあ。こんなに素敵な女性たちと一緒に暮らせて。ありがたみがわかってないようですよ」

「そんなことはない。いつも感謝してるよ」

「もう、そんなご挨拶もいいから、食べましょう!」


 みのりさんが用意してくれた豚の生姜焼きと野菜の付け合わせがテーブルに置かれた。味噌汁もおいしそうに湯気を立てている。


「素晴らしい~~! 最高のシェフですね、みのりさん!」

「まあ、そんな誉め言葉初めて聞いたわ!」

「いただきます。う~~む。美味ですねえ。野菜と肉のバランスがちょうどいい! こんなおいしい生姜焼きを食べたのは初めてです」

「僕もいただきます。おいしいです、みのりさん。いつも以上に」

「あら、上達したのかしら。夕希君も、ありがとう」


 すると、タツヒコがさらにほめる。


「料理が上手なだけではなく、謙虚なところもまた素晴らしい。そういう心遣いが料理の味に出るんですね!」

「まあ、恥ずかしいわ。そこまで言われると……」


 みのりさんは、頬を赤らめて恥ずかしがっている。年上なのに、この反応はすごいな。さすがタツヒコ。


「タツヒコ君は、地元に住んでいるの?」


 すぐ隣に座っている萌さんが彼に訊いた。


「はい、僕は地元の大学に通っています。といっても一時間ぐらいはかかりますが。だから一人暮らしをしている友人が羨ましい。実家では親の監視の下で暮らしてるようなものですから」

「それはそうよね。夏休みだから遊びに来たのね?」

「はいっ! こんな素晴らしいところで生活している夕希が羨ましい。素敵な人ばかりに囲まれて」


 タツヒコはぱっちりした自慢の瞳で萌さんを見つめる。この瞳で何人の女子のハートを射止めてきたことか。それでもきざに見えないんだ。


「素敵だなんて、もうっ!」


 萌さんは口元を抑え恥ずかしがっている。ブラウスの間から胸が見えそうなほどドキドキして揺れているのがわかる。


 イケメンをここへ招いたのは失敗だったのだろうか。


「萌さん、ルームウェアでおしゃれするなんて、やっぱり大人の女性ですね!」

「まあ、分かるう? ルームウェアこそがおしゃれの原点といっても過言ではないのよお~~。わかってくれて超嬉しい~~!」

「自然でいいですからね、そういうの」


 この会話の流れ、すごいなあ。ルームウェアにこだわりがある、というかそれの専門家だと瞬時に理解したっ!


「理解のある男性っていいわあ」

「僕は当然のことを言ったまでですよ」


 次は楓さんが質問した。正面に座っているので、食事しながらちらちらと彼の顔を見て話す機会をうかがっていたようだ。 

 

「タツヒコ君ってもてそうね」

「そんなことありませんよ。僕なんて、女性の心をちゃんと理解しなきゃっていつも反省させられてます」

「まあ、そういう謙虚なところがいいのよ! ここにいる間くつろいでね」


 うわあ、体育会系の楓さんまでがイケメンに興味を持っている。光さんはというと、質問する代わりにタツヒコの方が話しかけた。


「こちらの方は……」

「光です。よろしくね。看護師をやってるの」


 彼女だけが自ら職業を言った。


「おお、素晴らしい。あこがれの職業です。危険を顧みず常に命の現場に立ち会い、全力で戦う。勇気と実行力、それに万人に対する愛が不可欠です。尊敬します!」

「あ、ああ、そんな風に言われるとっ、照れちゃうわ~~っ!」

「照れることなんてありません。堂々としていればいい! 見ている人は見ているものです!」

「まあ、ありがとう! 感激!」


 光さんは満面の笑みで答えた。彼は女性たちを差別しない。その場にいる全員を褒めたたえる。僕は萌さんが嬉しそうに大きな胸に手を置いたのを見逃さなかった。



☆彡


今年初の投稿です。

今年もよろしくお願いします。

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