第67話 光さんのデートを目撃②
だが、持ち前の好奇心が頭をもたげた!
いけないとは思いつつ、二人の後姿を見つめる。影はゆらゆら揺れたりくっついたり離れたりしている。何やら話し込んでいる様子だ。
どんなことを話してるんだ!
まだ後ろから見ていよう。向こうは前を向いているし、辺りは真っ暗だから気づかれる心配はないっ!
光さんは飲み物を取り出し、くいっと上を向ける。僕は見やすい角度に体を移動させる。一歩一歩足を横へ滑らせる。
花島先生の様子はどうだろうか。
おお~~~、笑っているではないかっ!
光さんが何かおかしなことを言ったのだろう。話の内容も知りたくなったが、それは無理だ。こんなにドキドキするのは、萌さんの下着姿を窓際から見た時以来だ。
花島先生の片腕が光さんの肩に置かれたっ! ほとんど隙間がないくらい、ぴったりと体を寄せ合っている。
それから、二人の影が一つになった。
……そして、片方が片方へ頭を傾けたりぶつかり合ったりしている。
変わったことをしてる、ラブシーンにしては……。次に、再び座席をリクライニングにした。後ろを振り向かないことを祈りながら体を固くする。
僕はただ通りがかっただけ……そう信じて見つめる。
自転車が見つかりませんように……放置自転車だと思われてしまったら困る。
二人の動きが止まった! 何やってるんだ、あの二人。
すると、ドアが開き二人が外へ出てきた。
まずいっ!
僕は慌てて後ずさりし、竹藪の横に体を滑り込ませた。こんなところに入るのも嫌だったが、ますます出ていけなくなってしまった。野生の鳥がいたんだった。フクロウだか、カラスだかわからなかった……。
ここで何時間も過ごされたら、身動きが取れないぞ。次の動きは……。
立ったまま何か話し始めた。
「ねえ、この時間なの?」
「そうだよ。もうすぐ見えるよきっと。今日は天気がいいから」
「どこかに座ろう」
「そうだな。あの辺の石に座るか」
どっかりと腰を落ち着けるようで、ますます動けなくなった。
何かを見るために二人でここに来たようだ。こんなに暗くて人気のないところに。まさか、変な野生動物じゃないだろうなあ。そんな趣味が花島先生にあるとは知らなかった。竹藪の中に入ってきたら見つかってしまう!
「もうすぐだから……」
「……そう」
「あれっ、かなあ」
「光ってはいるけど」
花島先生はスマホで何かを調べている。
「そのようだ」
「綺麗ねえ。あたりが暗いからよく見えるわ」
「ほら、綺麗だろう!」
上を見上げている!
そうか、二人で星を見に来たのか。それでこんな真っ暗なところで!
「ロマンチックだなあ」
「そうね。とっても綺麗! 花島先生って意外とロマンチックだったのね」
「そうなんだよ、僕ってロマンチックなんだ。意外とは余計だよ」
意外と、だな。そっか、今日は星が綺麗に見えるってことか。僕も後で見てみよう。さて、見終わったらもう帰るんだろうな。
と、顔を出しかけたが、一向に二人は動かない。もう早く帰って欲しいなあ。
こちらもここで野宿しなければならないじゃないかっ、と怒っても仕方がない。
「あっ、痛いっ! 目にゴミがっ、ゴミがっ、入った~~」
「どれどれ、見せてごらん。ああ、暗くてよくわからない」
光さんは上を見上げたままの姿勢で、花島先生が顔を近づけている。こんな暗闇じゃ、目に入ったごみなんか見えるはずがない。光さんは目がかゆいらしく、手でこすっている。
「おお~~、こすっちゃだめだ。傷がつくよ」
「わかってるけど、かゆい~~っ!」
「懐中電灯を持ってくるから、こすらないで待ってて!」
「ふあ~~い」
そんなものまで用意しているのか。まずい、こちらを照らさないでほしいな。
「お待たせ、はい、こっちを向いてごらん」
「は~~い」
「ティッシュペーパーに水を含ませたから、これでふき取れるかもしれない。こすらないで目をぱちぱちさせて」
「は~~い」
素直だなあ光さん。ぎゅうっ、とティッシュペーパーを目に押し付ける。
「どうかな」
「わからないけど、何となく取れたような気はする」
「よかった」
さて、続きはどうなることやら。
うおっ、目的は達成したようで動き始めた。
今度こそ、花島先生の手が光さんの肩に延び……自分の方へ体を向けた!
いよいよかっ!
先生の顔が光さんに急接近する! もう遮るものは何もないっ!
……そして、顔が……ぴったりとくっつきあった!
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