第65話 香月さんに会う③

 暗い道を一人で引き返したが、怖いという気持ちより竹藪で光っていた眼のことが気になって仕方なかった。ちょうどその前を通りがかり、立ち止まってじっと目を凝らした。野生動物だったら襲われるかもしれない、と一歩一歩前進する。


(あれは、動物だったのか、それともライトのような人工的な物が設置されているのか?)


 立ち止まって見ているが、光るものの痕跡は何もない。さらに近寄ってみる。すぐ手前に竹藪がある。その奥は漆黒の闇だ。誰かに着けられて、その誰かが潜んでいたのだろうか。だが、僕たちをつけてどうするというのか。


 目の前まで来た。


 この奥に何かあるのか……。するとバサッと羽の音がした。音がする方には鳥が止まっていてその目がきらりと光った。


 鳥がいたのか! 


 はあ、人騒がせな。

 

 正体がわかりほっとして、来た道を引き返す。シェアハウスへ着くと萌さんと楓さんがキッチンにいた。この二人よく一緒にいる。


「ただいま」


 すると楓さんが手を挙げた。


「オ~ッス! 夕希君、元気だった!」

「もう元気ですよ。バイトも順調です」

「まあ、よかったわね。今終わったの?」

「ちょっと前に終わって、夕飯を食べてきました。柿の木で」

「いいわね~~。私たちはここで食べてたのよね」


 萌さんがうなずく。


「そう、ちょこちょこっと作って食べたの。スーパーでお刺身を買ったのよ。気づかなかったと思うけど。それに煮物に、冷やっこに、豪華でしょ」

「いろいろ準備したんですね」

「それから、クッキーも買ってきたから一緒に食べようよ。見慣れたお店のだけどね」


 テーブルの上に置かれたクッキーのパッケージを開けて中身を皿に出してくれた。


「わあ、それ大好物なんです」

「さあ、座って! ほら、ほら」


 僕は萌さんの横に座る。手に持ったお土産の箱をどこへ置こうか迷う。


「あら、それは何?」

「こ、これ。友達からもらった、旅行のお土産です」


 あっ、見つかってしまった。


「一緒に食べますか?」

「あら、いいのかしら」

「開けてみます」


 紙の包みをほどくと、小さな封筒が出てきた。手紙かな。あわててポケットに入れた。


「あら、あら、手紙が付いてたの……一人で食べた方がよかったでしょ。いいのよ私たちは」


 僕は大慌てで手を横に振った。


「開けてみます!」


 包み紙を開け、箱を開ける。そこには、ふんわりと焼けたカステラのようなお菓子が並んでいた。


「まあ、かわいい」

「ひとつづつどうぞ」


 日頃お世話になっている二人に、差し出した。萌さんは胸をくいっとそらせて口に入れる。半袖Tシャツの下で胸がゆらゆら揺れる。ちょこんと乗った顔のパーツが大きくなる。


「う~ん、甘くておいしいわ」


 楓さんも口に入れる。


「わ~~い、うまい~~!」

「僕も食べます!」


 ふんわりして、口の中で溶けた。卵黄のこんがり焼けた香りを砂糖の甘みが包み込む。


「それじゃ、僕はちょっと用があるんで部屋へ戻ります」

「あら、あら、もう部屋に行っちゃうの」


 楓さんは口をとがらせる。カードの中身を早く見たくて、残りの菓子を抱えて部屋へ入った。封筒の中から出てきたのは、手紙ではなく映画のキャラクターのカードだった。


 僕はすぐに香月さんにメールをした。


「ありがとう、カード!大好きなキャラクターだった」

「前にそんなこと言ってたから、テーマパークで思い出して買ってきた」

「机の前に飾っておくよ!」

「そうして、メールありがとう!」

「それから、お菓子もおいしかった」

「そうでしょ。私も大好きなの」


 電話すればいいものを、メールの吹き出しからどんどん言葉が出てきた。指先が滑らかに動く。


「光る眼の正体は、鳥だった」

「へえ、何の鳥なのかな?」

「真っ暗だったから、種類は分からない。ちょっと大きかった」

「そう、怖かったでしょう、一人で?」

「真っ暗だったけど、そんなに怖くなかった」

「すっごい、勇気ある!」

「好奇心のが強かったから。じゃ、また連絡するね」

「待ってま~~す💛」


 最後の言葉の後に、ハートマークがついた! 


わっ、と……その瞬間、心臓がドキリとし、体はピクリと震えて、心にもハートマークがついてしまった!

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