第59話 元カノが来た!①

 翌朝キッチンで光さんと会えた。


「光さん、本当に花島先生と付き合ってないんですか。すっごく仲がいいじゃないですか」

「まったく、付き合ってないってば!」

「あんな素敵な人が病院になるなんて、仕事が楽しくてしょうがないでしょう」

「あああ~~~ん、もう。違うってば!」

「もういいですよ。否定しててください。そのうち彼氏として紹介してくれる日を楽しみにしてます」


 光さんは、こぶしをテーブルに打ち付けていった。


「あっ、付き合ってるわけじゃないけど、今度ドライブすることになったわ」

「そういうのを付き合ってるっていうんです」

「違うって! ほかに一緒に行く人がいないんだって。可哀そうだから一緒に行ってあげるって言ったの!」


 やっぱり仲がいいんだ。


「どうぞお楽しみに!」


 日南ちゃんがそばにいたが、何のことかときょとんとしている。こういうことにちょっと、というかかなり疎いんだよなあ。


 僕の方はというと、規則正しい生活をすることを目標に、最近アルバイトを始めた。バイト先は駅前のスーパー。初めてのバイトで、分からないことだらけだ。商品を並べる仕事や、調理場で総菜を作る仕事、レジなどいくつかの業務に分かれているが、おもに商品を補充する仕事になった。


 バイト初心者の僕は、言われたとおり商品を運んでは陳列する。重いものも多く結構体力を使う。病み上がりの体には多少きついが、何とか体力をつけて乗り越えたいところだ。


 駅前の唯一のスーパーなので、客の中には知り合いの顔も見受けられることもあるが、黙々とやることにしている。


「木暮君、キャベツと玉ねぎが少なくなってるよ。早く補充して」

「はいっ!」


 箱詰めにされた野菜を丁寧に並べていく。売れ筋の野菜は常に気を配っていないと、いつの間にか減っている。


「人参も補充して」

「はいっ」


 終わったら、乳製品の売り場へ移動する。定期的に補充しないと、いつの間にか減ってしまう。 


 賞味期限を確認しながら補充する。


「あら、そこにいるのは木暮君じゃないの!」


 誰かが後ろから自分の名前を呼んでいる。同級生かな、と振り向いた。


「久しぶりじゃない!」

「えっ、結衣!」


 顔が引きつり、表情を無理やり作ろうとしても固まってしまった。


「その驚き様は何よ」

「どっ、どうしてここにいるんだ!」

「遊びに来たのよ、日南ちゃんのところへ」

「ここまで来なくたっていいのに!」


 僕は思いっきり攻めるように、口をとがらせて抗議する。


 わざわざここへ来なくたっていいだろう!


「ここでバイトしてるんだあ。入院してたんだって?」

「まあな。いろいろ悩み事があって、胃が痛くなったんだ」

「忙しそうじゃない?」

「見ての通り、忙しい。だから、邪魔するなよな」

「邪魔してないし、私たちお客さんだしい」


 僕はヨーグルトの賞味期限を確認しながら、古いものは撤去し新しいものと交換する。種類を見ながら同じ陳列場所へ置く。様々な種類があるので、間違えないようにしなければ。


「ええ~~っと、これはこっちで、これはあっち」

「いろいろ様子は聞いてるよ、日南ちゃんから。楽しそうにやってるみたいだね、今は。女性だけのシェアハウスで、男一人。夕希がにやにやして、鼻の下を伸ばしているところが思い浮かぶわ!」


 卒業してから数か月がたったが、結衣の口の悪さは全く変わらない。


「人聞きが悪いっ! 鼻の下を伸ばしたことなんかないぞ! 周りのお客さんに聞こえるから大声出すなよ!」

「だって、みんなにかわいがってもらって高校時代とは大違いじゃない?」

「結衣、僕の行動を監視しに来たのか! それに、高校のころから僕はみんなから可愛がられてた。そんなことは、今の結衣には関係ないだろうが!」

「そう、って言いたいところだけど、日南ちゃんとクラス会の相談するために来たの。夕希も気になるでしょ」

「僕は委員じゃないから関係ないや!」


 プイっと横を向いて、今度は日南ちゃんに声をかけている。


「ねえ、日南ちゃん大学の友達と旅行まで行ったんだってね。夕希変なこと言わなかった?」

「べ、別に、変ではなかったよ」


 さんざん俺の悪口を言いふらしていたから、日南ちゃんは僕を警戒していたんだな。どれだけ悪く言われてたんだろう。


「ほかの人に僕の悪口ばかり言うなよな。印象が悪くなってしょうがないよ」

「あら、私は悪口言ったつもりなんかないけどお」

「もうここの仕事は終わった。今度は豆腐を並べなきゃ。じゃあな」

「あっそう。じゃ、日南ちゃん買い物したらシェアハウスに行こうね。どんな所なのかなあ、楽しみよ。そこで相談開始ねっ」

「うん、わかった。あっと、私ヨーグルト大好きなの。そろそろなくなるころだから買っていこう」


 へっ、シェアハウスにも来るつもりだって。部屋にこもってよう。結衣がここへ来るとは思わなかった。最悪だ~~!

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