第45話 初めての合宿⑥

 次は上村君の番になり、僕のときと同じように大騒ぎしながらのゲームになった。


 先ほどと同じように日南ちゃんが最初の対戦相手となり、彼が勝った。日南ちゃんは初めはええ~~っ、そんなことするの~~~っ、と大騒ぎしていたが、一大決心をして彼の頬に唇を押し付けた。そのあとも、飛び跳ねたり手足をばたつかせる興奮ぶりにみな大笑いした。上村君はVサインを出して微笑み、日南ちゃんは満足げだった。


 亜里沙ちゃんの時には負けてしまい、ウィンクして彼女の頬にキスした。彼女は口元を抑えて悦んでいた。


 そして最後の香月さんとの対戦は……彼の勝だった。


 なんてこった、ああああ~~~~残念!


 香月さんが上村君にキスをする……自分が言い出したゲームなのに妬けてしょうがない。彼はこちらを見てどうだ、いだろうと見せつけるようににやにやしている。


 香月さんの方は恥ずかしそうに顔を一瞬伏せ、きゅっと口元を引き締めて彼の頬にキスした。悔しい気持ちが胸の中に広がる。


 ああ、彼女にキスしてもらいたかった! 


 あの役は自分がよかった。


 そして、ゲームが終わりひとしきりおしゃべりをした。いつの間にか時計の針が進みお開きとなった。




 それぞれ男女別々の部屋へ戻る。目くるめくような時間が過ぎベッドに入っていると、なかなか寝付けなくなった。目を閉じていても、三人の女の子たちが交互に現れては手招きしている。そばまで近づくとキスをしてくれる。先ほどの印象があまりにも強すぎて眠ることなどできない。悶々としていて、時間が過ぎても全く眠れずリビングへ行った。


 水でも飲んで体を冷やして、気持ちを落ち着かせてから寝よう。

 

 行ってみると、キッチンには明かりがついていた。先客がいた。


 同じようなことを考えているのは誰だろう? いや、ただのどが渇いただけか……。


「誰かな……」

「あら、夕希君、私」

「香月さん! 君も起きてたんだ……」

「ちょっと水を飲みに来ただけ……」

「僕ものどが渇いて……」


 言い訳することはないか。


「お酒を飲むとのどが渇くわね」

「そうなんだ」


 彼女と二人きりだ! 


 チャンスだ!


 先ほどの悔しさがむくむくと膨らんでいく。彼女のことが好きなんじゃないのか、僕は。ああ、彼女と二人でずっとこんな時間が持てたらいいのに! 


 先ほどの頬の柔らかさがよみがえってくる。


 もう一度触れられたらいいのに!

 

 だが、もうゲームオーバーだ。あああ、どうしよう、そうだ! 


 その時の熱に浮かされて、こんなことを口走った。


「あのさ、僕と付き合わない?」

「……え……急に何を言い出すの……」


 彼女にとっては予期せぬ言葉だったのか!


 あああ~~~~、しまった! 酔いに任せて先走ってしまった。


「考えさせて……と言いたいところだけど……」


 考えている? 


 そうか、ものすごくじっくりと考えている。


 即答できないでいる!


 時間がたつ……十秒…う~む、二十秒ぐらいか。


「……ああ、唐突にこんなこと言いだしちゃって、いいんだ」

「酔ってる?」

「まあ、そうだ」

「付き合うのは……ちょっと……やめておいた方がいいと思う」

「そうだよね、ってそうかあ……」

「私たちが付き合ってると、三人しかいないサークルがうまくいかなくなるでしょ」

「……そう?」


 僕たちが付き合ってると、上村君だけが浮いてしまうのか。そうなると、サークルとしての活動がうまくいかなくなる、ってことか。全く僕のことが嫌いってわけじゃないんだ。


「夕希君のことは嫌いじゃないから、誤解しないで」

「……わかってる」


 言わなきゃよかったのか、あああ~~~~っ!


「気持ちはうれしいよ」


 そういって香月さんは僕の肩に手を置いた。


 次の瞬間、僕に顔を近づけ……。


 ……頬に唇が触れた。これは……キスだ!


 うわああ~~~~っ、感動だ!


「お休みなさいっ、夕希君」

「……お……おやすみ……これって……」

「お休みのキス……ちゃんと眠ってね」


 うおおお~~~~っ、上村と同じだ! やったぜ!


 ベッドに潜りこみ頭から布団をかぶり、頬を撫でた。これでいい夢が見られる。断られたことなどすっかり忘れてしまった。


 お休み、香月さん……また明日……。(´∀`*)ε` )チュッ

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