第43話 初めての合宿④
「だからねえ、私はなかなか彼氏ができないのよっ!」
亜里沙ちゃんが言う。彼女はいつも友達キャラだと思われてしまうらしい。付き合いやすくていい人、というのが男子からの印象なのだそうだ。
「そういう人いいんじゃないの。僕はいいと思うよ」
上村君と気が合っている。香月さんのことが気になる。
「香月さんはお酒結構飲めそうだね?」
「ちょっとだけね」
飲める人が良く言うセリフだ。顔には出ないし、グラスを自然に口に運んでいる。
「家でもお酒を飲んだりする?」
「たまにね。たくさん飲んでいると思ったの?」
「結構飲めるのかなと思った」
「私は、音楽を聴いたり映画を見ながら、少しだけ。雰囲気に浸れるから」
さすがやることが大人だなあ。僕の方はシェアハウスでお酒を飲める人たちにつかまる度に付き合いで飲んでいる。飲むときはおしゃべりをしていることが多い。
「高校のときは、友達と寄り道して美味しいものを食べたりしてたけど」
「あれ、今でもそうじゃないか」
「そうだった、一緒に食べたものね」
「食べ歩きが好きなんだ」
「家で一人で食べるより誰かと食べたほうが楽しいからね」
「そうだよね、食事は一人より誰かと食べるほうがおいしい。また一緒に食べに行こうね」
こちらも香月さんと話が盛り上がる。隣に座っているし、お酒も入って親密さが増してくる。気分が盛り上がってきた。
隣の上村君は亜里沙ちゃんと日南ちゃん二人を相手におしゃべりに花を咲かせている。
「私だって負けないわよお~~~っ!」
突然日南ちゃんが声を上げた。
僕たちは話をやめて彼女の方を見た。目が潤んでいてワイングラスはほとんど空になっている。
「あれ、上村君彼女にたくさん飲ませたんじゃないのか?」
「違うの! 飲みすぎてないわよお~~。酔ってない~~~」
完全に酔ってる……。
「胸が小さいからって、何よっ! 大きいだけがいいわけじゃないのにい! ああん、ぐすん……」
「そりゃそうだ。大きければいいってわけじゃない!」
上村君が相手をする。
「私だってかわいいよねえ。同じ女の子なんだよ、上村く~~ん」
「日南ちゃんはかわいいっ! 世界一!」
「聡君優し~い」
「やっぱり!」
完全に出来上がっている。飲ませたやつが責任をとれよなあ。
「夕希君とは違うっ!」
「……え、ど、どゆこと」
「……いつも楽しそうに女の人たちと話してるけど、私には変な女の子を見るような目つきで……」
「そんなことないよ……」
「そうよ絶対そう、私のことを区別してる……」
「してない。僕は女性を差別しない主義だ!」
ああ、今度はこっちに絡んできた~~。しょうがないなあ。胸をそらし気味にしている。強調したいのだ。
「私も普通の女の子なのよ。ほら、友達の結衣とは全性格が違うけど……」
元カノの名前が出てきちゃった。
「確かに違うよ、それは。親友だからって、性格が似てるわけじゃない」
「それは褒めてるの、けなしてるの?」
「どちらかというと、褒めてる」
「ああ~~ん、ほめられてる気がしない~~」
「ちょ~~っと、結衣は思ってることが全部見え見えだけど、日南ちゃんは違う!」
「そこが私の欠点ってことなのね」
「そうじゃないよ」
話にならない。
「もうっ!」
「日南ちゃんは人の真似をすることはない。そのままで十分魅力的だから」
「嘘よお。私のことをそう言いながら、いつも放っておかれるんだわ~~~っ! 私も変身したい~~~!」
「変身? イメージチェンジするの」
「でも……どうやって。ああ……香月さんみたいに魅力的で、亜里沙ちゃんみたいに明るくて積極的な女の子になりたい~~~!」
日南ちゃん壊れちゃったみたいだ。あのミステリアスなキャラは何だったんだ。
「彼氏ができるできないかは相性なんだよ、結局」
「相性……」
「そう、相性。どんな魅力的な人でも、合う人と会わない人がいるでしょ」
「ふ~ん、やっぱり慰められてるだけだわ」
ああ、もうこんな言い争いはいい加減に辞めたい。
―――そうだ、いいことを思いついた!
「ちょっと、こんなことばかり言ってても面白くないからゲームをやろう」
「えっ、どんなゲーム?」
話題を変えたら日南ちゃんもすぐに食いついた。上村君だけがいい人のままで終わらせたくない。
「二人が下で手を軽く開いた状態で構えている。そこへ上からペンを落とす。自分の手の場所へ来たら素早く握ってペンを掴む。二人とも掴めなかったら、もう一度やる」
「それで、勝負が決まったらどうするの?」
「それはだなあ……」
どうしようかなあ、さて。
「負けた方が勝った方のおでこにキスをするっていうのはどう?」
「えええ~~~っ、キスをするの、負けた方が勝った方に!」
日南ちゃんだけじゃなく二人の女子もあわててる。却下されないといいな。しっぺをするんじゃありふれててこの場面では盛り上がらない。
「さあ、どうする」
「やってみる! 自分が変われるかもしれない」
かなりオーバーだな。おでこなのに。
「ほっぺでもいいよ」
「じゃあ、ほっぺにしよう!」
日南ちゃんの酔いに任せて提案したが、上村君は大喜びだ。二人の女子は……
「やろうぜ、遊びだからいいだろう!」
上村君の一言で二人も照れながらうなずいた。これなら勝っても負けてもいい。絡んできた日南ちゃんも大乗り気だ。
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