第40話 初めての合宿①
様々なことが起こった四月がようやく終わり、やってきた五月の連休。張りつめていた気持ちがふっと緩む。
僕たちフットパス愛好会は一年生だけで合宿をすることになった。
だが女子一名では気まずいのでは、と考慮して女子を他から増員することにした。やっぱり香月さんと男二人じゃ怪しげな合宿になってしまうだろう。そこで選ばれたのが亜里沙ちゃんと日南ちゃんだった。
亜里沙ちゃんだけを誘えば仲の良い日南ちゃんが仲間外れにされたと勘違いする、という配慮からだった。だから、どちらかといえばシェアハウスのメンバーに香月さんと上村君が混ざったような形になった。それでも僕はうきうきしていた。
ひょんなことから一泊借りられるようになったリゾート地のマンション。間取りは2LDKだ。男女が別々に寝泊まりすることができる。
到着し、とても綺麗で広いことに驚かされた。
「このメンバーで旅行できるなんて奇妙な縁ね」
亜里沙ちゃんが言う。上村君も思いがけず参加できた合宿に興奮している。上村君は二人の女子とは今まで交流がなかったので、彼女たちと知り合えたのもうれしかったようだ。香月さん一人じゃ許可が出なかっただろうしな。
「俺料理も結構得意だからよろしくな!」
と、気にいられようと張り切っている。日南ちゃんの深夜のトレーニングの件を彼は知らない。他のメンバーは四人とも元々知り合いだ。
「シェアハウスの面々に私たち二人が参加してみたいね。よろしく……」
香月さんは少し緊張気味だ。亜里沙ちゃんが安心させようと彼女に微笑む。
「そんなこと気にしないで、見たいところがあったら三人で遠慮なく散策してよ。私たち二人は気ままにぶらぶらしてるから」
すると、今まで黙っていた日南ちゃんが突然発言した。
「あ、でも……嫌じゃなかったら私も三人と一緒にあちこち歩いてみたいけど。もちろん嫌じゃなかったらだけど……」
「嫌だなんて、そんなことないわ。一緒に歩きましょう」
香月さん優しいなあ。
「そうだね、一緒に行動しよう」
上村君まで乗ってきた。日南ちゃんは僕と行動するのが嫌じゃなくなってきたんだ。翌日は朝からそのあたりの旧道を歩くことにした。
その日の夕食は鍋になった。準備はフットパス愛好会の三人がやることになり……鍋にした。鍋は手間がかからずバランスもいいし、話も盛り上がりそうだ。普段一人暮らしをしている上村君が人一倍張り切って準備をしている。香月さんが野菜を切ると、彼が鍋に投入しぐつぐつ煮込んでいく。僕はテーブルの準備をする。
上村君は鼻歌を歌っている。こういう食事が彼にはたまらなくうれしいんだろうなあ。しかも美人で頭の切れる香月さん、笑顔がかわいく優しい亜里沙ちゃん、そしていつまでたっても謎の少女日南ちゃんと一緒だからか……。
「さあ、準備はできたぞ~~! みんなあ、食堂に集合だあ!」
上村君が大声を出す。
「そんなに大声で呼ばなくても聞こえるわ! 準備してくれてありがとう。明日は日南ちゃんと私が朝食を作るわ」
と、亜里沙ちゃんがやってきた。
「うまくできたぞ! さあ、食べようぜ!」
なぜか自信たっぷりな上村君の掛け声で鍋パーティーが始まる。鍋を囲んで五人が集まった。大学のカフェで食べるのとは、一味違う。
「おいしいわ、上村君! 料理上手ね!」
「おいしいです……すごいです、上村君。ありがとう」
亜里沙ちゃんも日南ちゃんも上村君に感想を言う。
「さあ、食べるぞ! いただきます。味はどうかな?」
僕も柔らかく煮えた野菜とエビやホタテなどを取り皿にとり、汁をすすった。
「おいしい! 本当に!」
「だろう、北国秘伝の鍋なんだ」
「北国を旅してるつもりで食べようっ、ハフ……ハフ……」
香月さんも舌鼓を打つ。
「みんな遠慮なく、食べて」
上村君はまるで自分の家に招待しているようなつもりになっている。
鍋をつつきながら四人の様子をうかがうと……。
目の前に女子三人がいる。隣は上村君だ。上村君は香月さんと亜里沙ちゃんの方を交互に見ては、時々日南ちゃんの動作に目が留まっている。日南ちゃんは、何を食べようかと迷っているので箸がぐるぐる動く。それに伴い黒目もくるくる動く。顔を上げると、どちらかというと僕の方を見る時間の方が長い。
香月さんが上村君と僕を見る確率は半々ぐらい。まだ、彼女にとって僕は特別な人ではないのだ。女子にも男子にも同じぐらい声をかけている。
「あら、木暮君ちゃんと食べてる?」
「うん、しっかり食べてる」
だが、彼女に声をかけられると心がときめく。
亜里沙ちゃんは結構上村君に話しかけているし、彼もまんざらではなさそうだ。この二人相性がいいのかな。
そんなことを考えながら鍋をつつくのも楽しい。明日亜里沙ちゃんと日南ちゃんが作る朝食も楽しみだ。
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