第33話 休日のシェアハウス⑥
真ん中で両腕を掴んでいるのは萌さんだ。いよいよ楓さんとの対決だ。彼女ものすごい腕力の持ち主で、柔道の技も並大抵のものではない。腕を掴まれ倒されたのもあっという間の出来事だった。
「負けないわよ~~!」
意志の強い瞳がこちらを見つめる。
「僕だって!」
腕も太いなあ。それに腕を突き出すと筋肉が盛り上がっている。
「さあ、よ~い、初めっ!」
うわっ始まってしまった。腕にすべての力を集中させる。倒されないように踏ん張らなければ、とこぶしを思い切り強く握る。楓さんの腕をぎゅっとつかむことになる。
「うわっ、強いなあ~~」
「う~~~~ん、動かない……」
両者どちらへも動かない。ひたすら力を入れ、真ん中で火花を散らす。簡単に勝敗は決まらない。
「楓さんがぐっと力を入れると、腕が傾いた」
「うお~~~っ!」
こちらも思い切り腕に力を入れる。しびれるような感覚だ。周囲を取り囲む女性たちは真剣なまなざしで僕たち二人を見守っている。みのりさんが応援する。
「夕希君がんばれっ!」
「そうよ、持ち直して!」
萌さんも僕の応援をする
「楓さん、その調子よ!」
と、光さんは楓さんを応援している。
ぐ~~っ腕に力が入り、僕の方が優位になった。楓さんの表情が険しくなる。負けてたまるものか、という気迫に満ちている。目を合わせないようにして、さらに腕に体全体の力を載せる。
ああ、一気に押し倒せなければ、もうこれ以上続かない!
「うぐっ、はっ!」
腹部に力を入れる。頭の血管が切れないか心配だ。
「ふっ、おおお~~~っ!」
「うわあああ~~~~! きゃっ」
「勝負ありっ!」
長い戦いだった。全力を出し切り、ガクッと力が抜けた。
「悔しい~~~っ!」
僕の勝だ。楓さんに……勝った……。
彼女はがっくりと項垂れてた。
「やった! 僕が勝った!」
「……はあ……はあ……」
「あのう、大丈夫ですか?」
「あ~あ、負けるとは思わなかったけど、勝負は勝負。仕方ないわ」
やっぱり勝つと思っていたのか、負けたことが相当悔しいようだ。僕の方は前回倒されたリベンジができて優越感に浸ることができた。露骨に喜ぶと後が怖そうだから、ぐっとこらえて顔に出さないよう努めてクールに振舞う。
「たまたまですよ」
「そうかな……もっと鍛えなきゃ……」
「運がよかったんです、今日は」
「……そう……か」
心配をしていた萌さんが僕の腕を握った。
「あら、私との勝負がまだ残ってるわよ夕希くん」
「えっ、そうでした」
手がふわふわして柔らかい。体全体がふっくらしているせいかな。彼女に手を握られると、別の意味で血が騒ぐ。ず~っと握っていたくなるなあ。腕相撲なんかしたくなくなる。
「さあ、私とやりましょう?」
「萌さんは両手ですか?」
「私はあ、やっぱり両手かな」
「それじゃ、始めますよ」
審判は気を取り直して楓さんがやることになった。
「よ~い、初めっ!」
「う~ん」
僕は唸る。
「わあ~~~~っ、ああ~~~ん」
セクシーボディーなのに声が可愛い。力は……全然強くない。
こちらは唸っては見たものの、本気を出したらすぐに勝負がついてしまいそうだ。ここはわざと焦らすことにしよう。
「うっううう~~~、よおお~~~!」
「あっ、あっ、あっ、あっ、ああ~~~~っ、負けちゃう~~~~っ!」
「どうだ~~~~っ! これでもか~~~!」
「わっ、わっ、わっ、わっ、わあ~~~~っ、だめよ~~~~っ!」
声だけ聞いたら誤解されちゃうぞ。なるべく長く手を握るために接戦にしよう。
「強いなあ~~~~っ、萌さ~~~~~ん」
「あっ、あっ、あっ、あっ、ああああ~~~~~っ」
「まだまだ~~~~!」
「きゃん、きゃん、きゃ、きゃ、きゃ、きゃ、きゃ~~~~ん!」
仔犬みたいだなあ。今度は力を抜いてみる。
「わああ~~~、負けそう~~~」
「おっ、おっ、おっ、おっ、おおおお~~~~っ!」
萌さんが吠えている。
「負けないぞお~~~~!」
「だ、だ、だ、だ、だめええ~~~~っ」
「うお~~~~っ!」
「やっ、やっ、やっ、やっ、やだ~~~~~~っ!」
楽しいなあ。声も可愛い。もう少しだ。
「ううう~~~~ん、おおお~~~~っ」
「はっ、はっ、はっ、はっ、はあああ~~~~ん」
「まだか~~~~!」
「あんっ、あんっ、あんっ、あんっ、あっああ~~~~ん!」
こんなことをしばらく続けた後、グイッと僕は力を入れた。
萌さんの腕はぱたんと向こう側へ倒れた。
「夕希君の勝!」
「あ~~~~あ~~~~、負けちゃった。でも大接戦だったわねえ、夕希君」
「はい、いい勝負でした。楽しかった」
「私も」
あんなに長く手を握ってしまった。しかもおもいきり強く……。そのうえ萌さんの可愛らしいセクシーヴォイスを聞くこともできた。
いい体験だったな……。体中が熱くなった。
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