第32話 休日のシェアハウス⑤
テーブルで両者にらみ合う。といってもみのりさんは必死の形相もどことなく愛嬌がある。相手が両腕なので思い切り力を入れた。やはり両腕は強いからなあ。
腕に力を入れ集中するが、互角の戦いだ。
「負けないぞ!」
「私もっ!」
「ううう~~~っ!」
「きゃ~~っ」
体制を立て直した。そのままの姿勢でこらえる。持久戦にもちこめば……。
「うう~~っ」
「わっ、あああ~~~」
「どうだ!」
「うわあ~~~」
フッと相手の力が抜けた瞬間に、思い切り押した。
「あっ、だめえ~~もう~~」
「よ~~し」
「ああ~~ん」
「おっ」
ぐんぐん相手の腕を押し倒していく。
みのりさんの顔は真っ赤になり、苦しそうだ。
「やった!」
「わあっ……あ~あ。負けちゃったあ……」
審判の光さんはこちらに軍配を上げる。
「夕希君の勝! みのりさん惜しかったね」
「夕希君強いんだもの……両腕でも勝てなかった……」
「よ~し」
僕は優越感に浸る。みのりさんは普段幼稚園生を遊ばせているが、腕力は強くなかった。鉄棒などの筋力を鍛える運動は自分ではやらないのかもしれない。
「みのりさんがっかりしないで下さい」
「うんっ。夕希君が強かっただけ」
腕を抑えながら返事をしている。
「さあ次は私とね」
「光さんには負けちゃいますよ。両腕でしょう」
「う~ん、どうしようかなあ。みのりさんと互角だったから、私は片腕で勝負してみようかなあ……」
「それがいい!」
どう見ても光さんの方が腕力が強そうだから、提案に乗った。
「さあ、勝負よ!」
「本気出しますよ!」
「望むところよっ」
みのりさんが真ん中で審判だ。
「よ~い、スタートっ!」
お互い牽制し合いながら力を入れる。パワーがマックスになったところでこちらが有利になる。そのまま押し切るぞ。
ッというところで、反撃があった。思ったより力がある。
へえ、日頃重いものを持って鍛えてるのかなあ。
「う~~~~~~っ!」
光さんが唸っている。
こちらも負けてはいられない。負けずに唸る。
光さんの形相が怖い。かなりの本気モードだ。
「おおお~~~~~っ!」
あちらも再び雄たけびを上げる。
「んんん~~~~っ、ほほ~~~~っ!」
顔が赤くなってくる。両腕が真ん中で止まりどちら側へも動かない。面白くなってきた。相手が少しでも動かそうとしたら、こちらもくいっと押し戻す。
「うお~~~っ!」
「どうだ~~~!」
「うぐっ!」
ものすごく悔しそうな顔をする。結構負けず嫌いだ。楽しくなってきた。
暫くそんなことをして楽しむ余裕ができた。あちらの方がどう見ても必死だ。
だが、そろそろ腕がパンパンになってきた。思い切り力を入れ、一気に押し倒すぞ~~~!
「ううう~~~~、うぐ、うぐ、はっ! うわああ~~~っ!」
「よ~~~~~し!」
「うがああ~~~っ、だめだ~~~、負けちゃう~~~!」
「勝った!」
みのりさんは楽しそうに僕の腕を握って持ち上げた。
「は~い、夕希君のかち~~~!」
「あああん、悔しい……もう少しだったのになあ」
光さんは顔をぺたりとテーブルに伏せる。本気で悔しがっている。
「日ごろから鍛えてるから力ありますね」
「そりゃあ、結構思いもの持ってるからねえ」
「患者さんとか?」
「そう」
「よくドラマで掛け声かけて持ち上げてますよね。あれコツがあるんでしょう?」
「そうなのよ! 一気に持ち上げると力が集中して軽く持ち上がるものなの」
「いち、にっ、さん、ですね」
「それそれ。はあ……久々に楽しかった」
草取りの後は、二人を相手に腕相撲をして今日はいい汗をかいた。
―――とそこへ萌さんと楓さんが下りてきた。部屋にいたんだな。
萌さんはセクシーなスウェット姿で楓さんはたくましいジャージ姿だ。セクシーなスウェットというのはおかしいが、体にフィットして胸のラインがばっちりわかるスウェットと、ヒップにぴったりくっつきこれまたヒップラインが見えるパンツということだ。
「あらあ、みんなで集まって、何してたのお?」
「腕相撲よ! 夕希君と、楽しかったわあ。二人とも負けちゃったけど」
光さんが嬉しそうに答える。
二人はじと~っとこちらを見ている。萌さんは舌なめずりしているようで色っぽい。
何考えてるんだ……。
「わあ~~~ずるいいいい~~~~! 私たちもやろう一緒にいい~~~!」
「はあ、またですか」
「ねえ、いいじゃない夕希く~~~ん。何人とやっても同じよ~~」
「おお、いいわねえ。私とも勝負しようよ!」
「楓さんまで……わかります、やりますよ」
やればいいんでしょう、気が済むまでやりますよ。
今度は楓さんという強敵が現れた!
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