第31話 休日のシェアハウス④

 シェアハウスの中へ入ると光さんとみのりさんが昼食をとっていた。


「あら、夕希君畑仕事してたんでしょ?」

「そうなんです。この格好で分かります」

「だって、外で声がしてたもの」

「あっ、光さんの部屋からは畑が見えるんですね」

「そうなのよ。若者たちが働いてる姿はすがすがしいわね! あっ、大家さんもだけど」


 僕と日南ちゃんそして光さんの部屋は畑に面した二階にある。窓から外を見れば作業しているところは丸見えだ。


 そうか、それで日南ちゃんが様子を見に外へ出てきたのかもしれない。本当に不思議少女だ。


「お疲れ様、大変だったでしょ」

「はい……明日は筋肉痛になるかもしれません」


 すると看護師の光さんはすかさずいう。


「そうなのよ、筋肉痛は後から来るのよ。中腰の姿勢で作業してると、腰が痛くなるかもしれないから……まあ、若いからすぐ直るけどね。痛くなったら私がシップを張ってあげるから来てね」

「ありがとうございます! お願いします」

「いろいろ持ってるから、遠慮なく。草取り楽しそうだったじゃない?」


 やっぱりそこも見てたのかな、彼女とのやり取り。


「亜里沙ちゃんとは同級生だから、まあ。光さんは僕たちが仕事しているのを上から眺めて楽しんでたんですか?」

「ちらっと見ただけよ。私も休みの日にはやることがいろいろあるもん。洗濯や掃除に……」

「天気がいいからなおさらですね」


 みのりさんの様子を見ると……今日は元気そうで安心した。合コン以来落ち込んでるのかと心配だったが、今日はすがすがしい表情で本来の彼女に戻っている。


「みのりさん、昼食はオムライスですね」

「卵と鶏肉があったからパパッと作ったの」

「それで光さんと二人でランチですね……いいにおい~~」

「あれ、あれ、そんなこと言って……弱いなあ、そういうセリフ。一口だけあげようかなあ……」

「いえ、いえ、催促したわけじゃないので……みのりさんの分が減ってしまいます」

「もう……いいわ。一口だけあげるわよお」


 みのりさんはスプーンで一さじ小皿にとり分けてくれた。


「うん、美味しい~~! やっぱり最高です」


 光さんは苦笑いしている。


「みのりさんは夕希君に甘いんだから。よかったね、夕希くん」

「えへへ……」

「みのりさん、年下がお似合いなんじゃない?」


 光さんが冷やかしたものだから、みのりさんは焦りまくる。みのりさんが彼女? と想像してしまい僕も焦る。


「え~~っ、そうかしらあ!」

「わあ、本気にしてる。そういうとこ、かわいいんだよね」

「なんだ、冗談か」


 半分本心でいったようにも見える。


「う~む、オムライス美味しいわ。やっぱりみのりさんの作る料理はおいしい」

「光さん、また作ってもらってたんですか」

「またって言わないでよ、たまになんだから、うぐうぐ……」

「食べながら無理にしゃべらなくてもいいですよ、光さん。口からこぼれますよ」

「うぐ、そうれ、今は食べることに集中するわ」


 カチャカチャというスプーンと皿が触れ合う音がしばし聞こえる。


「ほんとっ、うまいわあ。うぐ」

「しゃべらないほうがいいです」

「そうほ……」


 小学生みたいだな、食べてる時の光さん。


 うぐうぐいいながら食べ終わった光さんが、僕とみのりさんを見比べていった。


「しかし、みのりさんて見た目が高校生ぐらいだから、夕希君といても同じ年ぐらいにしか見えないわね」

「えええ、そんな子供っぽく見える~~私。や~だ~」

「十分子供っぽいわよ。話し方も」


 僕も子供っぽい部類に入るのか。あ~~っ、怒るぞみのりさん。普通は思っても口に出しては言わなかいのに。


「そうかしらあ。やっぱり毎日幼稚園児と話してると子供っぽくなるのねえ。気を付けなきゃねえ」

「そこがいいところなんだから、直す必要はないわよ。私の話し方なんか全然かわいくないもん」

「いえ、そんなことはないですよ光さん」


 今度は僕がヒカルさんをフォローする。


「私はこれでいいの、仕事に合ってるし。患者さんに甘えたら誤解されるから」

「光さ~ん、私甘えてるわけじゃないのよ~~」

「そうですよ、みのりさんはそのままでいいんです!」


 今度はみのりさんのフォローだ。


「まあ、ちょっとやめよう。こんな話は」


 と光さんがストップさせた。自分で言い出したのにな。


「夕希君腕の筋肉ありそう。なんかスポーツやってた?」


 光さんが僕の二の腕を掴み、くいくい押してくる。


「特に、あ、でも子供のころ水泳をやってました」

「へえ、お坊ちゃん、ひょっとして」

「違います。たまたま街にスイミングスクールがあったんで通ったんです」

「ほお、だからスタイルがいいのね。体が引き締まってるし、腕力が強そう」


 何を言い出したんだ突然。


「腕相撲やってみようよ!」


 はあ、そういうこと。


「ええっ、女性と腕相撲をするんですか。僕の方が勝ちますよ……多分」


 絶対に勝つだろう。


「女性陣は両腕でやってもいいことにしない?」

「う~む、両腕かあ。いいですよお!」


 なぜかそんな流れで、勝負を受けて立つことになった。


「じゃ、はじめはみのりさん対夕希君。い~い、手加減しないでね!」

「しませんよ~~!」

「両者、よ~い、スタートっ!」


 戦いがっ、始まった!

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