第29話 休日のシェアハウス②

「二人とも、口ばっかりじゃなく手も動かしてね」


 うふふ、と吉田さんが笑った。


「ちゃ~んと動かしてるよ~~、おばあちゃ~ん! 任せといて!」


「お返事はいいわねえ」


 亜里沙ちゃんもにっこりする。笑った時に口角が上がる。


 あっ、片方だけえくぼが出る。これはチャームポイント!


「次は僕の番、亜里沙ちゃんのいいところはいつも元気なところ」

「いつもってわけじゃないけど……悲しい時もあれば落ち込んでるときもある」

「そうだけど、僕が見かけたときはいつも元気そう見える」

「見かける?」

「姿は見えるよ、ここではたまに、大学では時々」

「褒めてくれたんだから……まっいいか。じゃあ、夕希君のいいところは……」


 手が止まったぞ。なかなか思い浮かばないんだな。


「……どこかな?」

「親しみやすいところ。話しかける時のハードルが低い」

「そうなんだ。自分では意識したことなかった」

「これはいい点よね」


 それでここでは年上の女性たちがよく声をかけてきたのか。自分が話しかけやすい人間だとは自覚していなかった。これは得な性分だ。心にとめておこう。


「さあ、亜里沙ちゃんのいいところ、そうだな……」

「……さあ、なにかな」

「考え中……」


 考えながら雑草を引き抜き時間稼ぎをする。


「明るいところ!」

「わあ、漠然としてるな」

「最大の長所でしょ」

「だけど、誰にでもいえることよね」

「そうでもない、冗談でもいえない人はいる」


日南ちゃんは違う、が彼女には冗談でもいえない。


「えっと、次は私の番……夕希君は、女性に優しい」

「女性だけじゃなくて、誰に対してもかもしれない。人に冷たい態度をとれない。優柔不断なんだよな」

「ここには女性しかいないからそう思っただけ。まあ悪いようには取らないで……今はいいところを言い合うんだから」

「そうだった。亜里沙ちゃんはリアクションが早い!」

「おっ、確かにそう。何か言われるとすぐ返しちゃう。わかりやすい性格」

「いいことだよね」

「それって時によりけり、ケースバイケースなんだけど……まあいいっか」


 これはここで作業をしていて気が付いた。気持ちを素直に表すので、わかりやすい。だから詮索して変に気を使わなくてもいい。


「夕希君のいいところ……」


 また考えてるなあ。なかなか思いつかないんだなあ。


 すると亜里沙ちゃんは僕を観察しようと、じっくり草取りの動作を眺めた。こんな姿を見てわかるかな。


「わかった!」

「ほう」

「謎めいているところ」

「へえ! 驚いた。はじめて言われた」

「何を考えているのかわからない。ちょっとクールで感情が読みにくい」

「いやあ~~~違うと思うんだけど。ぼうっとしてるだけだよ」

「だって、ここで草取りをしてるのが楽しいのか楽しくないのか、わからないもん」

「楽しいってば!」

「そこが読めなかった」


 自分でも気が付かない事実がどんどん明らかになる。このゲーム面白いな。いいところを言い合うゲームでよかった。悪いことを言い合うゲームなんてやったら、誹謗中傷の嵐になるかもしれない。でも、亜里沙ちゃんの悪いところはほとんど思い浮かばないけど……。知り合って日が浅いがこんなにわかることがあるんだ。


 一番初めに僕が感心したのは料理がうまいことで、彼女が作った煮物は天下一品だったのだが、それはとっておきの事なので言わないことにする。


「イニシアティブをとれる!」

「おお、褒めすぎじゃない」

「場を仕切るのがうまいよ」

「ああ、確かに行事の時は率先していろいろやっちゃう性格。、見ていられなくなって手を出しちゃう。よくわかったわね」

「そういうタイプだと思った」


 亜里沙ちゃんもいう前にこちらを観察する。


「夕希君は……お茶目」

「へっ」


 これこそ意外過ぎて、最も驚いた一言だった。


「どこが~~?」

「しぐさ……いえ行動全般が」

「はあ、そうなのか」


 子供のころは面白い子だね、とかいたずら好きだねなんて親から言われたことがあったが、今でもその面影があったとはこの娘鋭いな。


 大方の草を抜き終わったところで休憩になった。


「夕希君、亜里沙、お疲れ様! おにぎりでも食べようか!」

「わあ~~い。おばあちゃんが作ったおにぎり、美味しいよ」

「いいんですか?」

「さあ、手を洗って一緒に食べよう!」


 今日は昼食にもありつけることになった。ラッキーだ。草取りをしてよかった。

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