第28話 休日のシェアハウス①

 シェアハウスに土曜日がやってきた。といっても、休日勤務のある光さんや楓さんは出かけてしまうこともあるが、学生の僕と亜里沙ちゃん日南ちゃんは暦通りきっちり休日になる。みのりさんと萌さんも基本的には休日のようだ。フッとパス愛好会のの活動もないので、朝からのんびりしていた。


 朝食を摂り外へ出てみる。周囲を散歩するのもいいと思ったが、畑を見ると大家の吉田真砂さんと孫娘の亜里沙ちゃんがいた。


「何か植えてるんですか?」

「いいえ、そうじゃないの。そろそろ草取りしなきゃいけないみたいで……」


 吉田さんは日焼けした顔をこちらへ向けて答えた。


「二人で草取りですか」


 亜里沙ちゃんがジャージ姿で手を振っている。


「そうなのよ。二人でやった方が早いから」


 そうだ、手伝おうかな!


 農業はやったことはないが家庭菜園の広さならできそうだ。


「僕も手伝いましょうか」


 吉田さんが申し訳なさそうに答えた。


「悪いわよ……学生さんはいろいろやることがあるんでしょ」

「今日は特に、だから手伝わせてください!」


 大変ではあるが、面白そうだ。すると、亜里沙ちゃんが言った。


「やってもらったおうよ、おばあちゃん。私たちだけじゃ大変だもん、ねっ!」

「全く亜里沙ったら、調子いいんだから。それじゃ、手伝ってもらうおうかな」

「はいっ、コツを教えてくれればできると思います。農業はやったことないけど」


 亜里沙ちゃんは僕の服装を見ていった。


「ジーンズじゃ動きにくいわよ。着替えた方がいいかも」

「そうだな、泥だらけにしたくないから……着替えてくる。待ってて!」


 急いで部屋へ戻りスウェットパンツに履き替えた。


「これなら動きやすい」

「オーケー、服装はばっちり」


 亜里沙ちゃんは満足気だ。人手が増えて喜んでいる。


「天気がいいけど暑くもないからはかどりそうね。じゃあ一緒に開始ねっ!」

「さあ始めましょう」


 吉田さんの合図とともに始まった。


「夕希君、農業はやったことないって言ってたけど」

「実家は田舎だけど農家ではないです。親は会社員だから」

「そうなの。ところで、敬語使うのやめない? 私たち同級生よね」

「そう……だね」

「亜里沙ちゃんの苗字はなんていうの?」


 そういえば聞いたことがなかった。


「吉田じゃないよ。お母さんの苗字は星の輝きと書いて星輝(ほしき)、だから私は星輝亜里沙。名前はすっごくロマンチックなの」

「わあ、すごいロマンチック! 本名だよね」

「れっきとした本名よ」


 誰が聞いても印象に残るロマンチックな名前……。自分もこんな名前だったらいいな。


「で、本人は平凡な女の子。特に目立つところはないし、スターのように光り輝いているわけでもない。目下のところそれが悩み」

「本当は目立ちたいけど、まだその手段が見つからない、ってことかな」

「そうね。そんな手段があれば苦労しないわね」

「だけど光り輝いてないっていうのは言い過ぎじゃないのかな。みんないいところはあるし、自分では気づかないけど優れたところはあるはずだよ。僕も平凡だけど、そう信じたいな」

「だよね。鏡の前の自分をたまには褒めてあげたいよね」

「その通り」


 草取りをしながら、おしゃべりの方が弾んでしまう。


「いいことを思いついた。お互いのいいところを褒め合うっていうのはどう?」


 と僕から提案した。


「ふ~ん、ゲーム感覚でやるのね。やってみよっかな」

「ねっ、お互いに気分がよくなるし、褒められて悪い気はしない」

「面白そうね」

「それでは、じゃんけんをして負けた方が先に相手を褒める」

「わかった。ルールは簡単ね」


 じゃんけんをしたら僕が負けたので、先に亜里沙ちゃんを褒めることになった。考えなくてもよいところはすぐに思い浮かんだ。ただいざ口に出して言うのは恥ずかしい。お世辞に聞こえないようにしなきゃ。


「ポジティブなところ」

「ええっ、意外」

「どう見てもそうでしょう」

「それじゃあ……夕希君のいいところは……私より身長が高いところ」

「外見についてかあ。まあいいや。男女差もあるけど、言われて悪い気はしない」


 僕たちのゲームは始まった。

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